「・・・これで、終わりだぁー!!」


そう叫んで大きく振りかぶり、巨大な熊へのトドメに掌打を喰らわせようとしたら

何処かから飛んできた謎の物体によって阻止されてしまった




相愛的コンプレックス




「グオォォ・・・ッ!?」

「あっ・・・!こら待て!!」


ドスッと顔の真横にある木に刺さった『何か』に驚いたのか、熊は情けない鳴き声をあげて逃げ去ろうとする

それに気付いた私は慌てて追いかけようとしたが、うっそうと茂った木々に阻まれ仕方なく諦めた


・・・私たち鬼の一族が暮らす『鬼の隠れ里』は、人里離れた場所に存在している


自然の中に隠された里でひっそりと、畑を作って自給自足の生活をおくり

たまに獣を狩っては大地の恵みに感謝しながら暮らしていた


先ほど私が戦っていた巨大な熊は、里の作物を狙って山を降りて来た害獣

熊や狼などの作物を荒らす害獣達は、無用な殺生をしないよう有志の若者達で追い払う事になっている


あの熊は掌打の一撃で気絶させてから、遠くに運んでしまおうと思ったのに・・・

私の計画の邪魔をしたのはどこのどいつだ!?


そうイライラとしながら横から獲物を掻っ攫っていった『何か』をみれば、

木に刺さったままの『ソレ』はとても見覚えのある形をしていた


十文字の形に組まれたような、特徴的な姿をした身長ほどもある大きな槍


・・・こんな変わった形の武器を扱っている奴など、この里には1人しか居やしない

コレを投擲したというのなら、絶対まだ近くに隠れて居るハズだ・・・!


「出て来いバジル!!」

「・・・バレたか」


怒りを隠す事もせずに槍の持ち主である人物の名前を叫べば、背後から低い声が降ってきた

その声を合図に振り返れば、丁度私の真後ろにある木の上から金髪の男が顔を出す


「『バレたか』・・・じゃない!とっととそこから降りて来い!!」

「・・・嫌だ」

「はあ!?」


身体を動かすたびガサガサと葉を揺らしながら、バジルは私を見下ろしてハッキリそう言った

何言ってんのコイツ・・・自分のした事が分かってないわけ?


コイツに見下ろされるのは腹立つし見上げる首が痛くなってきたしで、何だか段々とイラついてきた


「『降りたくない』って何でよ!」

アップルに怒られるのは御免だからだ」

「・・・良いからこっち降りて来なさいっ!!」

「む・・・」


あまりの言い分の馬鹿馬鹿しさに呆れ、降りてくるよう怒鳴って命令すれば

彼は渋々といった様子で木から飛び降り、私の真横にストンと着地する


その顔は『何故?』と言いたげな表情をしており、悪びれた様子が全く無い事をうかがわせた


「バジルあんた・・・なんで私の邪魔をしたのよ!」

「・・・邪魔?」

「そう邪魔よ!あと一発で倒せる所だったのに、どうしてくれるのさ!」


私がそう文句を言いつつ問いただせば、バジルは不思議そうに首を傾げる


「いや俺は、 アップルの邪魔をしたつもりは全く無いのだが・・・」

「はぁ!?アレが『邪魔』じゃなかったら、一体何だっていうの!?」

「・・・手助け?」

「何で疑問系なのよっ!」

「えー・・・」


そう発言に対して突っ込んでやれば、彼はポカンとした表情を見せた

え、ちょっと持って何でそんな表情してるんですか・・・?


アップルが素手で戦ってるのが見えたから、危ないと思ってとっさに・・・」

「・・・それで、熊に向かって槍を投げ付けたってわけですか?」

「ああ。気付いたら身体が勝手に動いてた」

「それが『邪魔』だって言うのよ馬鹿!」

「・・・何故だ?」

「は?」


ポツリと疑問の言葉を漏らすと、訳が分からないと言いたげな顔をしてこちらを見る


「俺は1人で戦ってるお前が危ないと思ったから手を出したんだ」

「何よ・・・それはバジルだって同じでしょ?それに私、全然ピンチじゃなかったし!」

「俺が『危ない』と判断したから言っている。誰かと共に行くか、せめて武器を持って戦え」

「武器?嫌よそんなの・・・格好悪い」

「・・・格好悪い?」


彼の提案に対し小声で呟いた文句を拾い上げたのか、眉間にギュッとシワを寄せて聞き返してきた

くっそ、地獄耳かよコイツ・・・


「『格好悪い』とは・・・どういう意味だ?」

「そのまんまの意味よ。丸腰の相手に武器を向けるなんて、そんなの格好悪いじゃない!」

「・・・だからお前は、いつも素手で戦っているのか」

「そうよ!私はそんな物に頼らなくたって強いんだから!!」


もうどうなっても良いと、半分ほど自暴自棄になりながら叫ぶ


私は強い

武器の力なんかに頼らなくたって、自分の力のみで戦えるわ!


「『そんな物』だと?・・・ アップル、己の力を過信し過ぎるな」

「何よ!武器を持たないと戦えないくせに!!」

「それは違う!」

「バジル・・・あんたには、私の気持ちなんて分からないわよ!!」


諭すようにそう言われたのが悔しくて、彼の無駄に整っている顔をジロリと睨みつけ吠える

・・・けれど私が放った言葉は所詮、ただの虚勢にしか過ぎなかった


里で一番の槍の名手で、『天才』だとか呼ばれている男のバジル

それに引き換え、私は・・・


「・・・確かに俺には、お前の気持ちなどさっぱり分からん」

「当たり前よ!・・・分かって、堪るもんですか」

「けど!昔はお前も、俺と同じように槍を使っていたじゃないか」

「子供の頃は・・・ね」


・・・そう、昔の話


幼い時は彼と共に槍の稽古に励み、手合わせをしたって私の方が強かったのに・・・

いつの頃からか、彼に挑んでも勝てない事が多くなった


成長するに従ってその回数は段々と増えていき、そしてついには全く歯が立たなくなるまでに


女である私と、男であるバジル

大人になった証のように、私達2人の力の差はどんどん差は開いていく一方だった


・・・だから私は、武器を捨てた


バジルと同じ『槍』という『武器』を使っている事で、彼と比べられるのが嫌だったから

誰かに言われる前に自ら捨てて、己の肉体のみで戦う事を選んだのだ


こんな私の悩みなど、目の前に居る『天才』と呼ばれる男には一生分からないのだろう


「・・・もういい。ほかに害獣が居ないか探してくるわ」

「おい待て アップル!まだ話は終わっていないぞ」

「はっ、誰が待つかバーカ!」


そんなコンプレックスの事など当然彼に話すわけも無く、適当に話を切り上げて去ろうとした

慌てたように引き止めるバジルの声はもちろん無視をして、後ろを向いて悪態を吐きながら歩く


「・・・うわっ!?」


と足元を全く見ずに草むらに進入したのが悪かったのか、不覚にも生い茂った草に足をとられてしまった

ヤバイ、こける・・・!!


「・・・・・・?」


数秒後に来るであろう衝撃に備えギュッと目をつぶっていたのだが、何故か一向に痛みが来る気配が無い

その代わりというように感じる腹部の圧迫感と、謎の生暖かさ


恐る恐る目を見開くと、真っ先に飛び込んでくるのは視界いっぱいの黄緑

そこから視線を下の方に移せば見覚えのある赤いグローブが、私の胴に巻きついているのが見えた


倒れかけている私の身体を支えるように、後方から抱き締める形で手が伸びている

この手の持ち主は、もちろん彼であるわけで・・・もしかして、助けてくれたのか?


「危なかった、な」

「バジル・・・っ!?」


ほぼ真横から聞こえきた声に首だけ動かして振り向けば、彼の顔がすぐ近くにあった

予想外の状態に思わず驚き、反射的に上半身を大きく仰け反らせる


長年こいつと一緒に居たが、吐息が感じられるほど近付くのは子供の頃以来だった


「あ・・・あああ、ありがとバジル!!」

「あ、ああ・・・」


普段からはありえない状況に焦り、言葉が激しくどもってしまうが仕方ない


彼に支えられて倒れかけていた体勢をゆっくり立て直すと、

動揺の中に混じる若干の照れ臭さを隠すように、慌ててお礼のセリフを口走る


それと同時にもう大丈夫だという合図に、腹部にまわされたバジルの手を軽くポンポンと叩いた

・・・が、何故か彼はなかなか腕を離さそうとしない


「バジル?どうかしたの?」

「・・・・・・。」


私の問い掛けには黙ったまま、ようやく身体を離したかと思えば真正面へ向き直る

そして普段ほぼ無表情な彼にしては珍しく、神妙な顔をして口を開いた


アップル・・・だからお前は、ほっとけないんだ」

「・・・は!?」

「・・・危なっかしくて、目が離せないと言っている」

「なっ!?」


そう彼はギリギリ聞き取れるような声量で呟くと、フイッとそっぽを向いてしまった

真剣な雰囲気には似合わない、バジルの言葉に拍子抜けして思わず変な声を発してしまう


・・・けれどよく見れば横を向いた彼の耳は、熟れたトマトのように真っ赤に染まっていた


その事実に気付いた瞬間、彼の態度に釣られるようにボッと身体の奥が熱くなる

か、顔が熱い・・・!なんか、こっちまで恥ずかしくなってきた!!


「・・・だから、お前は必ず俺の目の届く所に居ろよ」

「こ、この・・・」

「分かったな」


顔を背けたまま、優しく言い聞かせるように言葉をそう続けるバジル

お返しに私は息を思いっきり吸い込んで、彼と同じように顔を真っ赤にしながら叫んだ



「あ・・・当たり前でしょ馬鹿!バジルの大馬鹿野郎!!」







神無さんからいただいたサイト一周年記念のお祝いの小説です!

「戦う邪魔をされるのが嫌な強気の夢主と、バジルが揉める」という無茶振りに華麗に応えていただきましたっ・・・!

やっぱり成長していく中で、男女の力の差っていうのはどうしてもついてしまうもので・・・なんというジレンマ
けど、こういう男女の違いの話って大好きです!(変な意味ではありません。多分)

さすがです!私もこんな小説書いてみたいなぁ・・・
見習わなくては