・・・いいかい?
どんな時でも、“道標”を忘れちゃいけないよ
村の外れにある森に迷っても
これから決める、自分の将来のことも
“道標”を忘れてしまったら
もう戻れなくなるんだからね
昔、お婆ちゃんによく言われてたセリフだった
みちしるべ
「ねぇ
ちゃん!クラピカも連れて森へ行かない?」
一人の少年が私の元へと駆け寄ってきた
この子は・・・誰だっけ?
知ってるはずなのにな・・・
名前が思い出せない
でもあたしは返事をした
「森へ?でもお婆ちゃんは行っちゃ駄目だって・・・」
「行くなって言われたら行きたくなるのが人間でしょ!
ちゃんは行ってみたくないの?」
「そ・・・そう言われたら・・・でも・・・」
「じゃあ決まり!行こっ」
「え?ああ!待ってよー!」
あたしは、その子に手を引かれて行った
「クラピカー!森へ行ってみない!?」
「ちょっと待っ・・・あ、クラピカ!」
「何やってるんだ?二人とも・・・その前に森へ行くとか言わなかった?」
「言った言った!行こうよ!暇でしょ?」
――君は、あたしに誘ったのと同じようにクラピカに言った
・・・クラピカ行きそうにないなぁ・・・
「僕は行かないよ。お婆ちゃんに言われているだろう」
「クラピカってば固いなぁー
ちゃんは一回も嫌って言わなかったよ?」
「でもハッキリ行くとも言ってないよ?」
「とにかく僕は行かない。
も行くなよ。行ったのがバレたら僕も叱られるんだから」
「まだ昼過ぎだし、すぐ戻ってくるから大丈夫だよ!・・・行かないの?」
――君はちょっと悲しそうな顔をしてクラピカを見た
けどクラピカの答えは変わらなかった
次第に、あたしは森へ行ってみたいという気持ちが膨れ上がってきた
「あたし・・・行ってみたいなぁ・・・」
「え?本当!?」
「なっ・・・何考えてるんだ
!危ないし、叱られるぞ!」
こう言われるのは分かってた
でも、なんだか言いたい放題言われるのが癪になってきた
「バレる前に戻ればいいんでしょ?行こっ!――君!」
「いいの?クラピカ怒ってるよ?」
「いいの!」
あたしは――君の腕を引っ張って森へ向かった
・・・クラピカは心配しすぎなんだよ
その後も、――君はあたしに喋り続けたけど、あたしはそれを流した
途中から諦めたのか、話しかけてこなくなった
「近くで見ると・・・やっぱ大きいねぇ」
「普段こんなとこ通らないもんね」
「じゃあっ早速行きましょう!」
あたしが先導して、今度は――君が腕を引かれる番になった
時間は、丁度おやつの時間
「・・・・結構思ってたより明るいねぇ」
「ハァ・・・ハァ・・・ねーぇ
ちゃーん!もう戻らなーい?」
「まだ来たばっかりじゃん!もうちょっと!」
後ろで息を切らしている――君を余所に、あたしはどんどん森の奥へ入って行った
最初とは真逆に、あたしが興味津々で――君は帰りたそうにしている
・・・・もしかして怖くなったのかな?
まだこんなに明るいのに
「――君、怖いなら先に帰っていいよ?あたし、もうちょっと見てるから」
「それは出来ないよっ・・・!
ちゃんに・・・ハァ、何かあったら・・・僕の所為だからっ・・・ハァ・・・」
「あたしが怪我しても――君の所為じゃないよ?あたしが自分からこうやって見に来てるんだから!」
「でも元々誘ったのは僕だから・・・」
「もう!いいの!――君が責任負わなくていいってあたしが言ってたって言えばいいから!先行くよ!」
なんだか永遠に続きそうな気がして、あたしは逃げるように森の奥へと進んで行った
――君がついてくる気配がしてたけど、途中から気配が消えていた
「ょっ・・・いしょっと!結構歩いたかなぁー・・・ちょっと疲れたかも」
――君の気配が消えてからも、あたしは暫く奥へ奥へ入って行っていた
どれくらい経ったかは知らないけど、もうすぐ晩御飯の時間だ
生い茂った森の木の葉っぱの隙間から、オレンジの綺麗な日の光が射し込んでいた
もうそろそろ戻らなきゃ
あたしは、クルリと体の向きを変えて来た道を戻って行った
帰る途中で、可愛い花を見つけたから、クラピカに持って帰ろうと思って一本摘んだ
「クラピカ、喜んでくれるかなぁ」
クラピカの喜ぶ顔を見たくて、早く帰ろうとして顔を上げた
「・・・あれ?ここ・・・どこ?」
今まで夢中で森の中を進んでいて、周りの景色なんて気にも留めなかった
あたしは、ここを通ってきたのだろうか?
通ったことのあるような・・・ないような・・・
曖昧な記憶を頼りに、右へ左へ曲がりながら進む
けど、外に近付いているように思えなかった
逆に、更に奥へ奥へ入っているような気がしてきた
辺りは、次第に暗くなり、唯一の灯りの太陽も沈み、あたしは一気に怖くなった
こんなことなら・・・――君と一緒に大人しく帰っていればよかった
今更言っても無駄だけど、心からそう思った
もし、道が分からなくて帰れなかったらどうしよう
お母さん、お父さん、お婆ちゃん・・・クラピカ・・・・
「うぅう・・・誰か助けてぇ・・・クラピカぁ・・・!」
“
?お婆ちゃんの言葉を思い出して”
「え?・・・お婆ちゃん?」
“だから『道標』を忘れちゃいけないよって言っただろう?”
“いいかい?ここを真っ直ぐ進めば、お前の『道標』に会えるよ”
「あたしの・・・道標?って・・・誰?」
“行けば分かるよ・・・さぁお行き”
「待って!お婆ちゃん・・・」
けど、もう何も聞こえなかった
そういえば、あたし達のお婆ちゃんは皆と少し違っていた
変な力で、占いとかおまじないとかを村の皆にしていた
今のも、そうなのかな
とりあえず、今はお婆ちゃんに教えられた通りの道を走った
いる・・・きっといる・・・!
この先に、あたしの“道標”がある!
ドンっ
「うわっ!」
「わぁっ!」
がむしゃらに走っていて前を見ていなかった
そしたら誰かの背中にぶつかった
「いたたぁ・・・ごめんなさ・・・クラピカ!」
「ん・・・?
!
じゃないか!今までどこにいたんだ!」
「ごめんなさいっ!」
怒られて、あたしは素直に謝った
「今回のことは本当に反省してる!でも、――君は悪くないの!あたしが勝手に残るって言ったからなの!」
「まったく・・・まぁとりあえずこの事は帰ってからだ。帰ろう、お父さんもお母さんも心配してるよ」
「うん・・・あっ!」
「?どうした?」
「クラピカにね!プレゼントがあるんだー!これっ!」
あたしは先程摘んだ花をクラピカに差し出した
・・・・・あれ
「しっ、萎れてるー!!!」
あたしの手の中にある、ついさっきまで可愛らしかった花は今、しおしおになっていた
まさか必死になりすぎて握り過ぎちゃった・・・?
「や・・・やっぱり何でもない」
「可愛い花じゃないか。これは僕に・・・だよね?さっき言ったもんね」
そう言ってクラピカは花を取り上げた
あたしは取り返そうとするけど、クラピカの方が身長が高くて手が届かない
「えぇ!?そんな萎れちゃってる花なんてあげれない!捨てて捨てて!」
「捨てないよー。だって
からのプレゼントだもん」
「そんなぁー!」
「家に帰って水やれば、元通り元気になるよ!」
「うー・・・」
「さっ、帰ろっ」
あたしは、クラピカに手を引かれて歩き出した
何はともあれ、クラピカが迎えに来てくれたことがとても嬉しかった
多分、あたしの“道標”はクラピカなんだ
そう思った時、凄く安心して、嬉しかった
クラピカも、あたしが“道標”だといいな
・・・そんなわけないけど
END
一周年記念に書いた小説
まぁ・・・あれだお婆ちゃん強い
クラピカは子供の時の一人称は「僕」だといいよね
夢主を誘った子は、コミックスの何巻か忘れちゃったけどクラピカの記憶みたいなのにいた少年
多分あれは男の子だと思う
多分あの子と仲良かったんだと思う
でも夢主はその子の事覚えてません
これ夢主の夢の話だから(えっそうなの?)