ザアザアと雨が降っている
さっきからずっとで、うんざりしている
雨は嫌いじゃない
が、こんな雨の日はあの日を思い出す
オレに、希望をくれた女を・・・
生きる理由
オレはあの時、世界の全てを憎んでいた
ゴミためのような街の片隅で生きる毎日
嘲笑い、蔑まれながら生きてきた
だからオレは心の中で叫んでいた
いつか見ていろ!!
どんなことをしてでも・・・必ずここから這い上がって見返してやる!!
そんな時に、オレはアイツらに出会った
オレと似ている奴らだった
オレの元に、ピンクの生き物が近付いてきた
アイツらに出会ったのも、別れたのも、こんな天気だった
「お前も・・・・ひとりぼっち・・・なのか?」
「ピューイピューイ」
「そうなのか・・・」
ゴミの中から漁って出した穴の開いた傘に、ピンクの生き物を入れてやった
その時、少女の声が聞こえた
「チェリー?あれ?どこ行ったんだろう・・・チェリー?」
「ピューイ!」
「あ、チェリーいた!・・・あ」
オレと同じくらいの歳ぐらいの少女が、オレと目を合わせた
すると彼女は静かに笑った
今までオレを見て笑ってきた奴らとは違う、優しい笑いだった
「あなたも一人なの?」
と、彼女は微笑んだまま言った
答えずに目を逸らすと、彼女は傘の中に入って来た
オレたちは子供で体が小さいからすっぽりと入ることができた
「私も一人なんだー。でもね、チェリーと会って、一人じゃなくなったの!あなたも私達と一緒に生活しようよ!一人よりずっと楽しいよ!」
「ピューイピューイ!」
「チェリーも誘ってるから・・・ね?あっ、でも私達って言っても、私とチェリーだけなんだけど・・・」
今まで、こんなオレと一緒に生きようなんて言ってくれる奴なんか一人もいなかった
オレを見たら馬鹿にする奴らばかりで、声さえかけてくれなかった
嬉しいんだ。分かってる
分かってるけど、不安と期待が混じって落ち着かない
「・・・・迷ってる?」
「・・・・・・・・」
「迷ってるなら、行こう!」
そう言ってオレの腕を引っ張った
オレは彼女に腕を引かれるままに、雨の中を走った
そういえば、名前はなんていうのだろう
「お前・・・名前なんていうんだ・・・?」
「え?名前?ないんだー私」
「ないのか・・・?お前も・・・」
「もってことは、あなたもないの?じゃあ!名付け合いっこしようよ!私はあなたの名前考えるから、あなたは私の名前考えてね!」
まさかこんなことまで言われるなんて思ってもみなかった
名前を考えるなんて・・・しかも女の・・・
「ん〜・・・決めたっ!今からあなたはレモネード!いい名前でしょ?」
「えっああ・・・あり・・がとう・・・」
人にありがとうと言ったのは初めてだろう
まさか自分がその言葉を使う日が来るなんて思わなかった
「じゃあ・・・・お前は・・・
」
「
!じゃあ、私は今日から
!!」
「ピュイピュイ!」
それから、
とチェリーとの生活が始まった
始めは違和感しかなかったが、だんだん生活していくにつれて慣れてきた
次第に、お互いに今まで以上に心を開いて話していた
そんな時、事件が起こった
チェリーがいないと思い、オレは探しに行った
すると、大人数の大人たちがチェリーを捕まえていた
「おい見ろよ!生きてる貯金箱だ!!高値で売れるぜ・・・!」
「こんなとこでお目にかかれるとは・・・今日はツイてるぜぇ!」
「探せばもっと見つかるんじゃねぇか・・・!?」
という会話が聞こえた
こんな汚いところで育ったオレにも理解できた
チェリーを、売ろうとしてる
「チェリーを返せ!!」
「あ?・・・んだ?このガキ」
オレはチェリーを取り返すために大人たちの前に出た
オレたちは今まで一緒に生きてきた仲間だ
初めてできた大切な奴らだ
見捨てたりなんか絶対しねぇ
「それはオレたちのモンだって言ってんだよ!!傷付けたら許さねぇぞ!!!」
「そうか。お前のモンだったのか。そいつぁ悪かったな。だが、今はオレの手の中にある。・・・どうするかはオレの勝手だ」
「チェリーに手ェ出すな!!」
「どけ。時間の無駄だ」
そう相手の一人が言った次の瞬間
一瞬のうちにたくさんな事が起こった
まず、相手がオレに銃を向けた
そして、オレの横を何かが通り過ぎた
その影は、チェリーを持っている奴に向かい
チェリーをその手に取り戻していた
その次だった
スラム街に響く銃声
オレの前にある、オレがよく知ってる奴の背中
その背には、チェリーがいた
「・・・・・
ッ・・・!!!」
「レ・・・ネード・・・・・よかっ・・・た・・・・間にあ・・・・って・・・」
ドサリと力なく崩れたのは、
の身体
オレの腕の中で、だんだん冷たくなっていく
隣でチェリーが悲しそうに鳴いてる
「・・・んで・・っ・・・!なんで・・・庇ったんだよ・・・・っ!!」
「守・・・・りた・・・・って・・・思っ・・た・・の・・・・」
「そんなっ・・・!もういい!喋るな!!」
「私ね・・・・レモ・・・ネードを守れて・・・死ねるなら・・・本望だよ・・・・」
「何言ってんだよ・・・!!生きるぞ!一緒に生きようって言ったのは
だろ!?」
が喋る度に流れ出る血
止まる気配はない
オレに知識があれば・・・
を助けることが出来るかもしれねぇのにっ・・・!!
はオレを庇って撃たれたのに・・・オレは・・・何もしてやれねぇ・・・
もしかすると・・・・
は・・・もう・・・・
「なぁ・・・
・・・オレ、お前に何かできることとかって・・・あるか・・・!?」
「レモネード・・・私・・・・」
「なんだっ?何でも言えよっ・・・?」
「私・・・・・」
の白い手が伸びてきた
オレの頬を、そっと、優しく撫でた
「私・・・・レモネードと・・・暮らせて・・・楽し・・・かった・・・よっ?チェリーと・・・レモネードは・・・・・私の・・・・宝物・・・・!二人と
も・・・大好き・・・」
言い終わった直後、
の腕は落ちた
もう、二度と動かなかった
その後気がついたら、チェリーを捕まえていた大人たちが倒れていた
怪我をしている
一体何があったんだ
「・・・・・見て、あの子よ・・・・」
「・・・・・あんな子供が・・・よくやるなぁ・・・・」
「・・・・・ここもあそこも、全部あの子がやったんじゃない?・・・・」
遠くでボソボソと話す声が聞こえた
・・・あぁ、思い出した
オレがやったんだ
よく覚えてないが、自分の手から水の玉が出てきた
それを、大人たちにぶつけていた
リボルバーのように
所々、壁にくぼみができている
あれも、オレがやったのか
が殺されて、頭が混乱したのかもしれない
本当に、無意識だった
はもういない
話すことも、一緒に飯を食うことも、同じ傘の中に入ることもできなくなった
誰かが言ってた気がする
貯金箱を禁貨でいっぱいにしたら、願いが叶うって
さっきみたいに水の玉を撃てば、さっきみたいな奴らから禁貨を奪えるかもしれない
そうすれば、
を生き返らせることもできるんじゃ・・・
できるはずだ!
チェリーを禁貨でいっぱいにして、
を生き返らせれば、またアイツの笑顔を見れるんだ!
オレはその日から、バンカーになることを決意した
オレに生きる理由をくれた、オレの大事な友達を、初恋の人を、生き返らせるために