放課後

学校の皆が、部活をしたり、下校していたりする時間帯




私は、屋上にいる

細いフェンスから見える景色は、建物ばかり





けれど下を見ると、人気の少ない裏庭

夕焼けも射さない少し湿ったような場所





・・・私にとって、死ぬのに絶好の場所かな

死ぬ前に、図書室の本・・・読めるだけ読みたかったな




ふと、そんなことを考えた







ハングリー精神








後ろで、キィッとドアを開ける音がした

そして近付いてくる足音




隣に、夕陽を背にして座った一人の男子生徒

フェンスにもたれて、カシャンという音が響く




「何してんの?こんなとこで」

「・・・折原君には関係ないよ」




あー・・・もし今下に誰かいたらパンツ丸見えだなー・・・

なんて他人事のように考える




「ふうん・・・死ぬんだ」

「・・・・・・だったら何?ますます関係ないでしょ」




というか、知ってるなら聞かないでよね

それになんで話しかけて・・・





「やっぱりね。死んじゃうのか。寂しくなるなぁ」

「なんで貴方が寂しく・・・」




私は折原君と話したことなんてほとんどない

クラスは一緒だけど、さっきもすぐに名前が出てこなかったくらいだ




「俺は人を愛してるからね。愛するものがなくなれば寂しくなるのは当たり前だろう?」

「そんなの・・・私一人、いてもいなくても変わらない」




「あとは・・・そうだなぁ・・・好きだったからね」

「・・・え?」




「君の身体のラインとか」

「・・・・・・最低」




この期に及んでこんなことを言えるなんて

まぁ・・・彼は少し変わり者だった・・・気がする




「水泳の授業の時とか、眺めるの楽しみだったんだけどなー」

「水泳なんて男女別々でしょ・・・なんで見てるの・・・」




「見たいものは、何が何でも・・・まではいかないけど、見たいじゃないか」

「なんでそんなに爽やかに言えるの・・・ほんと最低」




でも、これからそんな事をされる日ももう来ない

今日で、この世界からサヨナラするから




「あとさ、君よく本読むよね」

「・・・それが?」




「俺も読むんだけど、図書室行くと読みたい本がいつも借りられてるんだよね」

「・・・・・・」




「それで教室戻ると、俺が読みたかった本を読んでいる生徒がいる」

「・・・私だって、読みたい本は読むよ。私より早く借りなかった折原君が悪い」




そう反論すると折原君は、はははっと声を上げて笑った




「あっはっは!そうだ、君の言う通りだ。でも君が死ねば、君との勝負も不戦勝ってことだよね」

「勝負って・・・たかが本を借りるくらいじゃない」




というか、折原君も本読むんだ

ちょっと意外だなー




それに図書室の本借りる云々で勝負って・・・

意外に子供っぽい




「そう、たかがその程度の勝負。それに俺は一度も勝ててないからね」

「でも、私が死んだら不戦勝も何も・・・その、自称勝負がなくなるわけでしょ?」




「そうだけど?ま、君がいなくなったら君が望んでたことを俺がしてあげるよ」

「私の・・・望んでたこと?」




「図書室の本、読めるだけ読む。ってやつ」

「なんで知って・・・」




誰にも言ったことないのに

しかもなんか、ちょっとドヤ顔なのが気に食わない




「本好きだったら、そう思わないかい?」

「・・・そのドヤ顔やめてもらえない?ちょっと腹立ってきた」




これから死のうっていうのに・・・この人、調子狂うなぁ





「まぁ、本読むにしても今まで競争してきた相手がいなくなると寂しくなるわけだ」

「・・・なら、とめる?」




「まさか。愛してるものの望みなら叶えてあげたいからね」

「・・・そう」





「それじゃあ、俺は君がしたくても出来なかった“図書室の本を読めるだけ読む”ことに専念するよ。あ、これから死ぬ君には関係ないか」





隣で勝ち誇った顔で言いながら、折原君は屋上の扉を開けて帰って行った






「・・・・・・・・・くっ」





いつまでもさっきの勝ち誇った顔が頭から離れない

私は、一人顔を歪めた































・・・今日もあの本なかったな

もしかして、借りたまま死んじゃったとか




まさか




そう思いながら教室のドアを開ける

そして、もうこの世にいない一人の生徒の席に目をやる




「・・・あれ?」




そう、誰もいないはずだ

けれどそこには、いつもその席にいる女子生徒が本を読みながらいつも通り座っている




そして読んでいた本から顔を上げて、俺を見る

本に栞をさして、パタンと閉じる




そのまま本を両手で持ち、自分の顔を隠すように表紙をこちらに向けて腕を伸ばす

その表紙は、まさしく俺が読みたいと思っていた本の表紙




本を少し下げて再び目を合わせる

目が合った瞬間、昨日自殺宣言をしていた女子生徒は、ニイッと笑った





「・・・・・・」




最初は意味が分からなかったけど、なんだかおもしろくなって俺は笑っていた




「あっははは!!」




本当に面白い

人間というものは




もう少しに付きまとって

人間っていうものを知りたくなってきた



















死ぬ前にあんな顔見せられたら、死にたくても死ねないじゃない

あんな勝ち誇った顔・・・




悔しいから、もう少し死ぬのは後回し

絶対に先なんて越させない


















あとがき

夢主はいろいろ辛くて自殺しようと屋上へ
すると臨也が登場して、初めて長々と話す

ちょっと負けず嫌いな夢主は臨也の態度に不満を持つ
「俺の勝ちだね」宣言されてイラついて

だったら生きてやる!!負けるもんか!的な