ハレルヤ
この春、私は大学を卒業した
いろいろあった学生時代だけど、今思うといい思い出ばっかりだったなぁ・・・
もうすぐ私が社会人なんて、実感湧かない
さっきまで学生だったのに、もう社会人だなんて
不思議な感じ
「・・・・あれ?静雄・・・さん?」
行くあてもなくフラフラと池袋の街を歩いていると、見慣れたような顔が見えた
小さな声でだが思わず声を出してしまった
しかし小さな声だったにも関わらず、その人は私に気付いたようだった
「ん・・・?お前・・・もしかして
か?」
「やっぱり静雄さんだ!お久しぶりです!」
私は、私の名前を呼んだバーテンダーの服を着た男の人・・・高校時代の先輩、平和島静雄さんに駆け寄った
金髪でサングラスをかけている静雄さんは、パッと見どこにでも居そうな普通の男性だが、怒ると大変なことになる
ガードレールや自販機を持ち上げて、更にそれを投げる
その人間離れした怪力から、彼を怖がり、近寄らない人も多い
「久しぶりだな。・・・いつ振りだ?」
「多分、静雄さん達が卒業してからですね。高校卒業以来です」
「そうか・・・もうそんなに経つのか」
「早いですよねー時間って。あっ、お仕事の途中ですよね、呼び止めてすいません。またお時間のある時にでもお話しましょう!」
「あぁ、そうだな。じゃあまたな」
そして私達は別れた
久々に会ったが、静雄さんは本当に綺麗な顔立ちだと思った
肌も綺麗だし、スタイルいいしで、きっと人気あるんだろうな
そうやってまたフラフラと歩いていると、どこからか声が聞こえた
「ねぇ君さ!もしかして
ちゃんじゃない!?」
私を呼んだのは、眼鏡をかけた白衣の男の人だ
私の名前を知っているということは、私も少なからず知っている人なのだろう
一瞬、誰か分からなかったが、どこかで見たことのある人な気がした
「もしかして・・・・・森羅さん?」
おずおずと尋ねてみると、笑顔で「そうだよー!」と言った
少々自信がなかったのだが、どうやら正解なようだ
「お久しぶりです!白衣着てるじゃないですか!お医者さんになったんですか!?」
「いやー医者って言っても、闇医者だけどね」
「でも、お医者さんに変わりはないんですから、凄いですよ!」
正直、私が一瞬分からなかったのは、白衣を着ていたからだ
それに、私的に高校時代の彼はどちらかというと童顔だと思っていた
しかし数年ぶりに会ってみると、輪郭が少しシャープになっていて、それに見慣れぬ白衣だったため分からなかった
「そういえば、セルティさんはお元気ですか?」
「うん、元気だよ。よかったら、ウチに寄ってくかい?」
突然の申し出に驚いた
特に理由はないのだが、久々に会った先輩に言われたら少し驚くと思う
「でも、お仕事の途中なんじゃ・・・」
「仕事で出歩いてたんじゃないよ。散歩に出てただけだから」
「じゃあ・・・・お言葉に甘えて・・・ちょっとだけっ」
というわけで私は森羅さん宅にお邪魔することになった
移動中は他愛もない会話をした
大学での生活や、セルティさんのことなど、いろいろ話した
気がつけば、もう森羅さん宅に着いていた
「さ、入って」
「お邪魔しまーす・・・」
家にお邪魔すると、廊下の向こうから黒いライダースーツの人が出てきた
手にPDAを持って、画面に文字を打ち、こちらに見せてきた
『おかえり。・・・・と、いらっしゃい。
・・・だな?久しぶりだな』
「お久しぶりですセルティさん。お元気そうで、何よりです」
『ああ、
も、元気そうで良かった。暫く見ないうちに、綺麗になったな』
「いえ!そんなことないですよ!セルティさんみたいにスタイル良くないし・・・顔も整ってないし・・・」
『そんなことないよ。充分綺麗だから。なぁ、森羅?」
「そうだよ。
ちゃんは美人なんだから、もっと自信持った方がいいよ。セルティには負けるけどね」
「あ、ありがとうございます・・・それにしても、仲良いんですね」
本当に、この二人は昔から仲が良いと思う
私が森羅さんと知り合った時から変わっていない
森羅さんがセルティさんを大好きなのは凄く分かるけど、でもこうして見ていると、セルティさんも森羅さんのことが好きなんだなぁと改めて思わされる
なんだか、見ているこちらも幸せになってくる
『とりあえず、上がって。さっき作ったお菓子あるけど、食べる?自信ないけど・・・』
「セルティさんの手料理ですか!?いただきます!失礼しまーす!!」
自分でも図々しい客人だと密かに思った
それでも、二人は快く入れてくれた
「このスコーンとっても美味しいです!さすがセルティさん!!」
「セルティの料理は世界一だー」
「今度お時間のある時にでも、作り方教えてください!」
『こんなので良ければ、いつでも教えてあげるよ』
「やったー!」
セルティさんは、いつでも。と言ってくれた
けど、仕事もあるだろうし、私も私でなかなか忙しい
私の方が一段落したら、私がここへ訪ねて、セルティさんの時間があれば教えてもらうことにした
『もう帰るのか?もう少しゆっくりしていけばいいのに』
「そうだよ。大学生時代のこととか、いろいろ聞きたいし」
「私も、お二人のこともっと知りたいんですが、なんせ家の片づけがあるので・・・そろそろ帰らないと・・・・」
『そうか・・・残念だ・・・また、いつでも来てくれ』
「
ちゃんなら、いつでも大歓迎だよ」
そして私は別れて、自宅への帰路を辿った
それにしても、一日でこんなに懐かしい人たちに会うなんて珍しい
今日一日あったことを思い出しながらフラフラ歩いていると、後ろから肩に手をかけられた
手を置かれるのと同時に聞こえた懐かしいもう一人の声
「どうしてシズちゃんや森羅には挨拶して、俺にはしてくれないのかな?
ちゃん」
「ゲ!折原先輩・・・・」
後ろを振り向くと、黒いファーコートに黒いTシャツ、黒いズボンを履いた細身の男性がいた
顔立ちはとても綺麗だが、個人的に苦手なタイプの先輩だ
「今、ゲ!って言ったよね。ちゃんと聞こえてるからちょっと裏路地行こうか」
「あっすいません。聞こえてました?ちゃんと小声で言ったつもりだったんですけどねーハハ・・・じゃ、私はこれで」
「待ってよ。この俺が逃がすと思う?」
「滅相もございません」
多分、性格的な問題で私はこの先輩が苦手なんだろうと思う
静雄さんや森羅さん、セルティさんは大好きだ
でも、やっぱりこの先輩は苦手だ
「ていうかさっき
の隣通ったのに素通りしたよね?俺のこと見えてたはずだよね?目合ったもんね?」
「あえてスルーしたんですよあえて」
確かに、折原先輩らしき人が前から来ているのは知っていた
目もばっちり合った
2,3回合った気がする
「酷いなぁ。他の二人には声かけてさー、俺には声かけてくれないなんて悲しいなぁ」
「私から声をかけたのは静雄さんだけですよ。森羅さんは声かけてくれたんです。折原先輩と一緒ですよ」
「シズちゃんに声かけたのかい?そして俺には声をかけない。おまけにシズちゃんと森羅のことは名前で“さん”なのに俺は苗字で“先輩”。なんかおかしくな
い?」
「いや、普通だと思いますが」
駄目なのだろうか
いや・・・だって私折原先輩苦手だし・・・
「何か問題でも・・・きゃっ!なっ、なんですか!?」
いきなり抱き着かれた
後ろから
何が起こったのか分からなかった
落ち着け自分、落ち着くんだ
だんだん落ち着いてきて、周りの人から見られていることに気が付いた
道行く人がじろじろと見てくる
「ちょっ・・・離してくださいっ・・・!!人が見て・・・」
「離さない」
「なんでですかー!」
「
が俺の事名前で呼んでくれないから、嫌がらせ。俺は別にいいよ?こうやって
の肩に顔隠せるから」
「うわっ!待っ・・・きゃはは!くすぐったっ!あは!」
先輩の髪が首に当たってくすぐったい
しかしそれで野次馬が減るわけでもなく、むしろ増えたぐらいだ
「よっ、呼びます!名前で呼びます!!臨也さん!!これでいいですか!!いいでしょう!!離してください!!」
「駄目駄目。さんはいらない。あと敬語も」
「それはっ・・・無理です!臨也さんは仮にも先輩なんですから、一応敬意を表して・・・」
「それは嬉しいんだけどね、俺としてはそっちじゃない方がもっと嬉しいかな」
別に先輩が嬉しいからやってるわけじゃなくて、ただ離してほしいからやっているんだが、と思ってしまった
もしそう言っても離してくれないだろうとも思った
「い・・・いざ・・・や・・・・離し・・・て・・・・」
思った以上に恥ずかしく、途切れ途切れになってしまった
けれど、先輩はそれで離してくれた
「こんなに真っ赤になっちゃって。可愛いね」
「〜っ!!!」
私は恥ずかしくて、そのまま家に走って帰った
「いいよ。逃げるだけ逃げてくれよ。絶対捕まえてやるから」
そう聞こえたような気がしたが、その思いを振り払うように、私は走るスピードを上げた
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