存在の必要について
冷たい床が頬に触れる
ゆっくりと目を開けて辺りを見た
ここは、どうやら一つの部屋らしい
でも・・・
ここは、どこ?
知らない部屋、知らないベッド、知らないテーブル、知らない椅子
何もかも知らないものばかり
それに、体中が痛い
少し動かしただけで激痛が走り、起き上がることができない
よく見れば、服も着替えさせられていた
黒いスーツとは真逆の、白い半袖半ズボン
しかし、上下ともサイズが合わずにぶかぶかだった
明かりのない、真っ暗な部屋だった
かろうじて見えるものは、先程の家具と自分の服
他は何も見えない
今は何時なのだろう
もし窓があれば真夜中だし、なければ今の時間は分からない
どちらにせよ、どうして自分がここにいて、どうしてこうなったのかを思い出さなければ
何があったんだ?
お父様、お母様は?
思い出せ
思い出せ
どんなに頭を働かせても、思い出すことはなかった
何故だ?
どうして思い出せない?
まるで、思い出そうとしているのに、『私』が拒否しているように
全く思い出せない
けれど、父や母から離れられたのなら、私はいいと思った
生まれ落ちた時から、道具として扱われてきた
もうまっぴらだった
あんな奴らの言いなりになることは
その時、唯一の出入り口であろう扉が開いた
白くて眩しい光が、真っ暗な部屋に射し込んだ
思わず顔をしかめた
逆光で顔は見えないが、数人の誰かが入って来た
「目が覚めたか。さぁ、来い」
「これが次の被検体か・・・」
そう言って私の腕を掴み、ひこずるように運んだ
ふわりと、血の、鉄の臭いがした
意識はまだはっきりしない
聞こえてくる悲鳴、泣き声、不快な音
ここは、一体、何をする場所なんだ
ここは、どこだ
こいつらは、誰だ
お前たちは、私をどうするつもりなんだ
また、私は、道具として、扱われるのか
私は、道具にしか、なれないのか
汚い人間の、大人の、いいように使われるのか
「また廃棄だな・・・」
「仕方がない。次だ」
「これは成功すれば大きな力となる。絶対に成功させるんだ」
また、使い終われば、捨てられるのか
ならば。私は。
いつか、お前達を、壊そうじゃないか
お前達を、終わらせようじゃないか
何の研究をしているかは知りもしないし、知りたくもないが
お前達の、与えようとしている、その力で
お前達自身を、殺してやろうじゃないか
そのためならば。
被検体だろうが、使い捨ての道具だろうが。
なってやろうじゃないか
生きて、生き抜いて、お前達を、この手で
「良い眼だ。期待しているぞ」
今までとは違う男のシルエットだった
私の髪を掴み、顔を上げさせて言った
「生きたくば、自分の価値を示せ」
言われなくても。
やってやるさ。
お前達自身で、私の価値を体感すればいい
自分達のいいようにしか使わない“道具”の姿を
その眼に焼き付け、その身で感じればいい
何だって耐えてやる
死なない限り、私はお前達を呪い、壊し続けよう
この心臓が、体が、動かなくなるまで
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