「ねえ・・・もう判定書は出てるんでしょ?私がパパッと殺っちゃあ・・・」

「駄目に決まってるだろ」




「ですよねーでも武器壊すくらいなら・・・」

「いいから大人しくしてろ」



「はいはい・・・」







001.優しい嘘で始まる舞台







、コーヒーと紅茶どっちがいい?」

「あ、ありがとうアンナ。じゃあ紅茶で」

「分かった」




アンナは、手際良く紅茶を作ってくれている

私は今、ソレル9番区の、ジョルダーニ一家の居候になっている




好きで居候しているわけではなかった

仕事で、デルヴェッキオ一家の頭領ブルーノ・デルヴェッキオの監視をするために、この地へ来ていた




アイツは黒だ

見事にスキャッグスを使用していた




デルヴェッキオが黒と分かった時点で私の仕事は終わっていて、このまま本部へ帰れるのだが

もうすぐ別の執行人が判定書と共にやってくるので、その人と帰ろうと思っていた




が、もうすぐと言っても、ある程度の時間はかかってしまうもので

その間の宿をどうしようか悩んでいたところに、ジョルダーニ一家の四代目・・・アンナと出会った




適当に、『旅をしているが宿に困っているので、どこかいい場所を紹介して欲しい』と言ったら




「じゃあ、私のところに来る?最近、世の中物騒だから街の外から来た人は要注意だからね」




と言ってくれた

彼女が言う『最近世の中が物騒』というのは、スキャッグスが増えてきてマフィア同士の抗争が多くなってきたことだろう




そして、スキャッグスを壊して、使用しているマフィアを壊す

それが私達、レッドレイヴン




アンナは訳ありで、若くしてマフィアのボスになったらしい

自分とそう変わらない年頃で、こんな汚い世界にいる




おそらく、今ジョルダーニの力は弱り切っている

けれど、アンナはスキャッグスに手を出そうとは一切しない




私がレッドレイヴンであることは一言も口に出していない

それでも、アンナは名誉と仲間のために“力”を使う昔ながらのマフィアだった






「どうしたの?そんな深刻な顔して・・・」

「あ、なんでもないよ」



「そう?はい、紅茶」

「あぁ、ありがとう」




私はマフィアは嫌いだった

でも、アンナのような人は嫌いじゃない



今のご時世、このようなマフィアのボスは数少ないだろう




「アンナは・・・強いよね」

「え?何?どうしたの急に・・・」



「私と歳もそう変わらないはずなのに、こんな世界で生きててさ・・・ましてや、マフィアのボスだなんて」

「まぁ・・・仕方がないのよ。おじい様も、お父様も・・・いないし・・・」




「あ・・・嫌なこと思い出させた?ごめん」

「ううん、いいの。いちいちへこんでたら、マフィアのボスなんか務まらないわ」




あぁ

アンナは、強い



大事な人を失ったのだ

彼女も人間なのだから、その時の感情に浸りたい時もあるだろう



そんな時間もないのだ

ジョルダーニ一家は、一刻も早く復興しなければ、ますます衰弱してしまう



彼女は、本当に強い

私は、そのような感情など、持ち合わせてはいないけれど




「・・・ごちそうさま。紅茶、美味しかったよ」

「そう、良かった。また、どこかへ行くの?」




ティーカップを渡して、私は赤のコートを羽織った

それを見て、アンナは問いかけてきた




「うん、ちょっとね・・・」

「行ってらっしゃい」




よそ者の私が、毎日長時間出かけていることはアンナも不思議に思っているはずだ

なのに、一切口出ししないで、いつも見送ってくれている




そういうところが、好きだった




「うん、行ってきます」




そして私は、デルヴェッキオの監視に向かった




















ジョルダーニ家を出て二、三時間

やや日が暮れ始めてきた




ある一室のドアの陰に隠れて、私は監視を続けていた

ブルーノ・デルヴェッキオと、その部下の会話が聞こえてくる





「ついに来たか。レッドレイヴンの情報網は侮れねぇな」




(やっと来たか・・・誰が来たんだ?)

(四番目は・・・・方向音痴だからあまり期待したくないな・・・けどあのカラスがいるならいいかなぁー・・・)




そんなことを考えていたら、聞きなれた名前が聞こえてきた





「・・・・・・だからあんたに構ってる場合じゃねえんだよ」

「なあ、ジョルダーニのお嬢さん」




「・・・!」




ジョルダーニの・・・お嬢さん・・・・?

アンナ・・・!!どうしてここに・・・




「・・・・・・一つ・・・聞きたい」




静かな屋敷の中に、アンナの声がよく通る





「なんで・・・殺したの?」

「・・・・・・『なんで』?」




デルヴェッキオが、鸚鵡返しのように反復する

それに、殺したとは、どういうことなのだろう・・・




「おじい様はただ、守ってただけ。デルヴェッキオの領域には手を出してない。

 ただ自分の守るべきモノを守ってただけ・・・・!!」





初めて聞いた、アンナの家族のこと

まさか、殺されていたなんて・・・




それにさっきは、おじい様と言った

なら、もしかするとアンナの父親も・・・?




「俺達はこの力で全てを手に入れる、それだけだ!!」

「ふざけんな!!恥知らず共が!!」




二人の言い争いが激しくなった

私は、いつの間にかドアに寄り添って会話を聞いていて、不覚にも近付いてくる足音に気付かなかった




「あれ?」

「うわっ」




丁度その時、相手の部下が私に気付き、私が寄り添っていたドアを開けた

少し体重をかけていたため、私は前のめりに倒れる形での登場となった




!?アンディ!?」

「あー・・・見つかった」



「アンナじゃないか。さては君も無限ループに迷い込んだね」

「迷ってんのはあんただけだ!!」



「っていうか、もいるじゃん。久しぶり」

「あー一番来てほしくなかった人が来たよ・・・私いつもそうなんだよなー」



「え?何?ボクなんか悪いことした?」

「いや・・・どうせコレ終わったら本部に帰るんでしょ?だったら一緒に帰ろうかと思って来る執行人を待ってたんだけど・・・

 まさか四番目が来るなんて・・・」



「あー・・・今もう一つ仕事入ってるけど・・・それでいいなら。っていうか最後の言葉ってどういう意味?」




私は華麗に、その質問をスルーした




同じ赤いコートのフードを被った金髪の少年・アンディは、同じ仕事仲間で、四番目の執行人

アンディは・・・アンディも・・・スキャッグスの・・・




「その赤い服・・・・・・お前達、まさかとは思うが・・・・・・」

「ねえ・・・あの尊大な態度・・・まさかとは思うけど、アレがドン・デルヴェッキオ?」




「まぁ」




とりあえず、仕事は終わったから一応退席しよう

外で待ってればいいでしょ




「私、一応仕事は終わったから。外で待ってるねー」

「えっ、うん。分かった」



「頑張ってねー」




そして私はアンディ達と別れて、屋敷の外で待つことにした

帰り道は、アンディの監視鴉・・・シャルルがいるからなんとかなるとして



アンディはもう一つ仕事かー大変だなー・・・

考え事をしながら数分待っていると、私の監視鴉、オズが空から降りてきた





、悪いが仕事が入った」

「えぇー?もう帰る気満々だったのに・・・」




それに、先程アンディと共に帰る約束をしたばかりだ

仕事で仕方がないとはいえ、交わしたばかりの約束を破棄するのは気が引ける



「スキャッグス絡みとなれば、仕方ないだろう」

「スキャッグス・・・ねぇ・・・・ま、仕方ないかあ・・・あ、アンディに伝えるから少し待つよ?」



「何故待つんだ?」

「オズが来る前、直・前・に!一緒に帰ろうって約束したの!でも仕事入っちゃったし・・・」



直前に、という部分を強調して言った

少し、オズが微妙な顔をした気がしたけど気にしない



でも、アンディにも仕事があって、私にも仕事来た・・・

もしも方角が一緒だったら別に問題は・・・



うん、ない

というか、オズにもナビ機能付けてほしいんだ切実に



そうすれば全く知らない町からでも本部に帰るのに迷わないし

正直言えばシャルルとオズを交換してほしいくらいだ




でも、それをすればアンディは二度と帰って来なくなるからだめだ、諦めよう





「え、ほんとに待ってたの?」

「あ、終わった?」




アンディが扉から出てきて、少し驚いた顔をした

いやいや、いくらなんでも伝えることは伝えるから



そんな薄情なやつだと思われてたのかな・・・




「まぁいいや・・・ところでさ、アンディって次の仕事どこ?」

「分からない」



聞き間違いだろうか




「え?なんて言ったの今」

「分からないって言ったんだよ」



・・・ん?なんで?

シャルルは?ナビは?




「シャルルは今故障しちゃっててさ、修理してる」

「えぇ!うっそ!!」




期待していたシャルルがいないなんて予想外もいいところだ

どうして私はこういうことに限って運がないのだろう




「じゃあ・・・・仕事場も分かんないってわけか・・・これだと一緒に行ったら余計に時間かかっちゃうかぁ・・・」

「じゃあさっきのはナシってことで」




「そうだなーシャルルいないし」

「なんでそんなにシャルル、シャルル言ってんの?」




「迷わずにちゃんと帰れるから」

「あそ」




「ねぇオズ、私は次どっちへ行けばいいの?」

「次はキースカル街の7番地だ。ここから確か南の方角だと聞いた」




「そう、分かった」




私はアンディと向かい合わせに立って別れを告げた




「じゃあ、私行くから。シャルル無しでもちゃんと帰ってくるんだよ?」

「うん。努力する。多分直ったら勝手に戻ってくると思うし」




やっぱり皆監視鴉の扱いって酷いと思った

私もそうだと思う、八割くらい




すると、デルヴェッキオの屋敷からアンナが出てきた

さっきまでお世話になったのだから、挨拶ぐらいちゃんとして別れよう




レッドレイヴンのことも・・・・





「アンナ、今まで世話になったね。ありがとう。感謝してる」

「・・・、あなた・・・」




分かってる

言いたいことは




それが分からない程、私は鈍くない




「黙っててごめんね。レッドレイヴンのこと・・・けど、レッドレイヴンは秘密機関。簡単に口外できるもんじゃないから・・・」





分かってほしい、なんて図々しいにも程がある

俯いている私に、アンナは優しく言ってくれた




「分かってるわ。仕方のないことよね・・・それに、私はあんた達には感謝してる」

「え?」




私とアンディを見つめてアンナは言った

どうしてだろう




騙して、それに敵同士なのに




「アンディやのおかげで、ここの新興マフィアを潰すことができたから」




そう言ったアンナの顔は、少し赤くなっていた

そう言われて嬉しいけれど、・・・・それでも・・・




「けど・・・騙してたんだよ?」

「過ぎたことでしょ!それに、居候してた時と今の、あまり違わないもの」




「・・・今も性格を作ってるかもしれないよ?」

「先に謝っとくわ。さっき、アンディと話してるの聞いちゃったの」




「嘘・・・さっきの会話・・・?」




まさか聞かれていたなんて・・・全然気配に気づかなかった

レッドレイヴン失格だ




「調子が一緒だったから。いつものと」

「・・・・・・」




確かに、私はアンナの家に居候していた時に性格は作ってなかった

ただ雰囲気を作っていただけ




「わ、私はいい友達ができたと思ってる」




唐突に言い出したことに、私は一瞬理解できなかった

友達・・・?私が・・・?




「短い間だったけど・・・それでも友達になれたと思ってるって言ったのよ!」

「・・・・・・」




まさか、そんな

だって、騙してたのに、政府とマフィアなのに




「敵同士ってことは分かり切ってる。それでも」

「じゃあ!」




アンナの言葉を遮って口を開いた

アンナは少し驚いた様子で私を見つめた




「じゃあ・・・私も・・・・敵同士だけど・・・・友達だって思っていいの?」




アンナは大きな目をさらに見開いて私を見た

その状態のまま、アンナは言葉を紡いだ




「と・・・・当然でしょ・・・!!」




そしてプイッと背中を向けたアンナ

敵同士、だけど、友達と言ってくれた



どれだけ嬉しかったことか




そんな感情に浸っていると




「おい、そろそろ行くぞ」




なんて空気の読めないバカ鴉なんだろう

せっかくいい雰囲気だったのに台無しじゃん




「アンタもうちょっと空気読むってことを学んだ方がいいよ」

「いつまで話し込むつもりだ」




確かにこのままじゃいつまでも話し込んでしまいそうだ

仕方がないけどお別れだ




「じゃあアンナ・・・私そろそろ行くよ。また、会おう」

「・・・仕事頑張って」




「アンナも・・・あり得ないと思うけど、スキャッグスには・・・・やっぱりいい。アンナのこと信じてるから」

「ありがとう、じゃあね」



「うん、じゃあ」




そして私とアンナは別れた

アンナに背を向けて気付いた




アンディ・・・いたんだ

すっかり忘れてた・・・・




今の会話もばっちり聞こえてるよね当然・・・




「まぁ別にボクは口出ししないよ。仲良くなったマフィアを消さなきゃいけないことになって悲しむのは自分なんだから」

「・・・分かってるよ」





そしてアンディとも別れた

アンナは、スキャッグスに手を出したりなんかしない




アンナは、スキャッグスをとことん嫌っているから

私はそう信じてる




「さ!ぱっぱと仕事終わらせて本部へ帰ろうか」

「・・・そうだな」



なんかオズ冷たくない?

せっかく気分上げて行こうと思ったのにこいつは・・・




まあいっか

今日はなんだか、上げなくても気分がいいから












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