008:ヨリミチ
『しかしよくこんな所で生活できるなぁ。』
今まで追いかけまわされていたシャルルが、率直な感想を言った。
それにしても、ロボットでも息切れするんだ……。
「一日一日大切に地べた這いずって必死に生きてんだろう、よ゛っ」
自分の棺に腰かけていたウォルターが立ち上がろうとしたら、ウォルターの後頭部に何かが飛んで来て鈍い音がした。
音からして金属だ。
「……大丈夫?」
「……今日二回目だぞ……。」
その場にうずくまって後頭部を抑えるウォルターを見てちょっと可哀そうになってきた。
一回目はシャルルのクチバシ攻撃だろうな……。
「ごめん、手からすっぽ抜けたっ」
「部品とれてない!?」
リチャードの連れていた子とは違う別の子供二人が走ってやって来た。
この子達が金属を飛ばしてきた犯人だ。
「その銃すでに壊れてるけど……。」
子供の相手はアンディがしてくれている。
今の間にどこかでハンカチを濡らしてきてあげよう。
あんまり綺麗な水ではなさそうだし、もしかすると水道が通ってないかもだけど。
二回目だし。
「ちょっと待ってて、ハンカチ濡らしてきてあげるから。」
「お、おう……。」
ウォルターの呻くような返事を確認して、私は近くの建物に入って蛇口を捻った。
奇跡的に一軒目で水は出てくれた。
出てすぐの水を使うのは気が引けるから、しばらく出した後に濡らした。
「ウォルターおまたせ……あれ?」
戻ってくると、居るはずの二人がいない。
さては二人で私を驚かそうとしているな。
その手には乗ら、
『たった今ウォルターがアンディを追いかけてったぞ。』
「……え?追いかける?」
予想が大外れした事は自分の胸の内に秘めて、なかったことにした。
それにしても追いかけるってどういうこと?
『今のアンディが勝手に動き回るってことは……どういうことか分かるだろ?』
「……迷子?」
『バカ。スキャッグスだよ。』
「あ、そっか。」
そんなこと言われてもいつも勝手に動き回って迷子になってるし……。
『さっきの子供が持ってたガラクタ……あれはスキャッグスの破片だった。』
「子供が持ってたの?」
『ああ……ベルリーニって奴のところに持っていくと金にしてくれるんだとよ。人の使い方が上手いな、この場所ならではだ。』
「褒めてる場合じゃないでしょ。とにかく二人のところまで案内して!」
『俺はシャルルみたいなナビ機能はついてないんだがな。』
「いいから早く!どうせ場所知ってるんでしょ?」
もしアンディが余計なことをするようなことになっても、その前にウォルターが止めてくれるだろうけど……。
少し不安に思いながら、私は前を飛ぶオズについて行った。
角をいくつか曲がると、アンディを壁に押さえつけているウォルターがいた。
「アンディ、ウォルタ、」
「お前の抱えてるものに意見するつもりはない。だが仕事より私怨を優先するなら話は別だ。」
「……。」
私は二人の視界に入るか入らないかくらいのところで足を止めた。
けど、オズはそのまま近付いて二人の側まで飛んで行った。
「あ、ちょっとオズ……!」
「俺達……レッド・レイヴンは、飼われた鴉ってことを自覚しろ。」
二人の足元に、オズの黒い羽根が一枚落ちた。
アンディはウォルターの言葉を聞いて大人しくなった。
さすが年上……言い聞かせるのが上手い。
すると、やっと私の存在に気付いたように謝罪をした。
「あ、悪いな。勝手に動いて。」
「大丈夫だいじょうぶ、気にしないで。」
「……んじゃあ、さっさと行くぞ。」
「あ。」
「ぎゃ、」
ウォルターの棺の後ろにチラッと人影が見えたような気がしたけど、気のせいではなかったようだ。
気が付いた時には遅かったけど。
『扉から出た瞬間棺にノックアウトされたみたいだな。』
ピクリとも動かない倒れた人を見るやいなやシャルルがそう解釈した。
いやまあ合ってるんだけど。
「おい!!ベルリーニの奴がやられてるぞ!!」
「ベルリーニ!?ってまさか……」
その背後から男が二人出てきた。
やられた男の仲間で、その男が問題のベルリーニらしい。
畳みかけるように男二人が持っていた銃を発砲してきた。
私達は間一髪で近くの扉のない建物に隠れた。
「引き留めなきゃよかった……アンディはどこに行く気だったんだ?」
「すべて計算のうち」
『嘘つけ!!』
「そんな事言ってる場合じゃ……!!」
本当に危機感というものが全く感じられない。
なんというか……ツイてないというか。
さっさと帰るべきだったんだ。
心の中で愚痴をこぼしながら二人の後について行く。
てきとうに扉を開けると、数人の男がテーブルを囲んでいた。
テーブルの上に置いてある物や、床に置いてある荷物からして、楽しいお茶会というわけではなさそうだ。
それらを見たウォルターが、合点がいったという風に呟いた。
「……なるほどね。15年前の抗争で使われたスキャッグスを直して、さばいてんのか。」
「ベルリーニはどうした?ここは立ち入り禁止だぞ。」
少し遅れて男達が敵意剥き出しで聞いてきた。
何はともあれ、見てしまったものは仕方がない。
質問を無視して、私達は戦闘態勢に入る。
私は自分の武器に被せていた布をはぎ取った。
私の武器は「カタナ」と呼ばれるもので、東の小さい島国のものだ。
長さは私の身長の半分より少し長いくらい。
剣とほぼ同じようなものだが、刃が両面ではなく片面しかないというのが大きな違いだ。
「成り行きだがしょうがない。ちょっと灸を据えてやるか。」
今回は判定書も出ていない、本当に「成り行き」だから生かしておく。
威力もそんなにないだろうし。
「上等だ!!」
アンディを中心にして三方向にそれぞれが向いて敵の相手をする。
男の相手をすることに集中していて、ウォルターの棺が近付いてくるのに気が付かなかった。
「危ない!」
「えっわっ!!」
いきなり視線が下がったかと思ったら、次の瞬間には棺が頭上すれすれを掠めていった。
アンディの足が私の足を後ろから引っ掛けて転ばせたのだ。
それがなかったら、私は今頃どうなっていただろう……。
礼を言おうとすると、そんな暇もなく男達が攻撃を仕掛けてくる。
私は床に腰を付けていて思う様に動けなかったが、男の足元を思いっきり蹴飛ばして、バランスを崩し倒れて近付いてきた顔を鞘でぶん殴って気絶させた。
「せめぇな」
もともと部屋が狭い上に大人が何人もドンパチしてるんだからそう感じて当然だ。
しかも発言したウォルター本人の棺が一番スペースを取っている。
でもそれがラッキーだったりすることもある。
「だけど向こうも無闇に銃は撃てない。」
「くそっ……なんなんだこいつら。おい何突っ立ってんだ!!」
追い詰められた男の一人が、仲間に向かってそう叫ぶ。
その仲間の正体を知って、私達は驚くことになる。
「撃てリチャード!!」
「……え、」
振り向くと、光のない目でこちらを見て、銃を構えているリチャードがいた。
それが見えたのは一瞬で、振り向き終えた時には既に、私達に向かって一発発砲してきていた。
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