010:自由な心










折れた。

案の定枝は折れた。




「分かってた、こうなることは。」

「お疲れ様、三日間良く頑張ったね。」




「私も頑張ったよね。」

「一日千回も素振りなんてほんと良くやったと思うわ。」




「元親と出会ってからほとんど運動してなかったからなぁ。」

「これで少しくらい痩せたんじゃないかな?」





「一人で戯言を申すな。気味の悪い奴よ。」

「あ、元就さん。いやー三日目にして七百三十八回目の素振りでぽっきり折れてしまった枝に労いの言葉を、と思って。」




半分に折れてしまった枝の前に正座をしていたら、背後から元就さんが近付いてきていた。

そういえば、今日は日輪がいつもより素晴らしい的なよく分からない事言って、元就さんもいつもより甲板に顔を出す。




でも背後からいきなり声かけないでよ!

冷静保ってたけど結構びっくりしたじゃん!!



しかもさりげなく気味の悪い奴って言われてちょっと落ち込んでるんですけど。




「ほう、折れたか。」

「折れました。」




「・・・・・・」

「・・・・・・」




・・・・・・え?

それだけ?





「ではな、我は日輪を崇めるので忙しい。」

「えっちょ、え?」




「なんだ、我に用でもあるのか。」

「いやっ別にないですけど・・・」




「おかしなやつよ。」




・・・・・・

ええええ嘘、行っちゃったよ!




私はともかく、この枝に何か一言くらい添えてあげても・・・!

まぁ本音言うと私も一言欲しいんですけどね!?




「お前も可愛そうに……でも大丈夫!私がいるからね!」




「折れてもお前はお前だ!」

いつもみたいに一緒の部屋で寝るんだもんな!!




お前との修行は終わったけど、これからも一緒だからね!

そうだ、今度元親に紹介してあげるよ!




イイ奴だから安心してね!

あ、厠行ってこよう。




枝に語りかけてから分かりやすいように台の上に置き、その場から少しだけ席を外した。

本当に少しだけだった。




なのに帰って来ると、




「・・・・・・ない。」





台の上に置いてあったはずの枝がどこにもない。

船の揺れで床へ落ちたのかと思ってあちこち探しまわったけど、ない。




「どこ行ったの・・・!?」

「まだここにおるのか。何をしておる。」




「っ元就さん・・・!」




顔を上げると元就さんの顔が・・・・・・あったけど逆光で見えない。

そんな事はどうでもいい!




「元就さん!」




私は元就さんの足にガシッと抱き着いた。

でも元就さんは全く動じず、ピクリとも動かない。



「何事ぞ。」

「あのっ、ここ、ここに置いてあった折れた枝、知りませんかっ・・・」



すがるように尋ねると、元就さんは当然のように言い放った。




「あの枝か。先程捨てたわ。」

「え!?捨てた!?」




「使えぬものをいつまでも所有する道理はない。」

「あんまりじゃないですか!あれの持ち主は私ですよ!」




「元々は我が拾ったものだ。我がどうしようと貴様には関係ない。」

「関係ありますよ!だって、確かに元就さんが拾ってきたものですけど、私に譲渡したんですから私の物です!」




「誰も譲るなど言ってはおらぬ。あくまで所有権は我にある。」

「そ・・・それでも一言くらい仰ってくれてもいいんじゃないですか!?」




盲点を突かれて口籠ったけど、それでも引き下がれない!




「貴様・・・あの枝に愛着が湧いたのか。」

「そうですよ!だって厳しい修行を一緒にこなしていった相棒なんですからね!?」




「ふん・・・・・・馬鹿馬鹿しい。やはり阿呆のすることは我には理解できぬ。」

「暴言で枝が返って来るならいくらでも我慢できるんですけどね!」




「いつまでもうるさい奴よ・・・たかが枝一本如き・・・。」

「たかがって・・・!!もういいです。私、陸に着いたら降りますから!」




「それはさせぬ。」




冷ややかだった目が更に冷やかになって、私の顔を見下ろした。




「貴様は長曾我部の弱味・・・貴様にはまだ使える価値がある。それまで我が駒として使わせてもらう。」

「そんなの知りませんよ!私が何処へ行こうと私の勝手ですから!!」




「引き下がらぬか・・・・・・ならば新しい道具を与えてやろう。感謝するがいい。」

「新しい道具なんて・・・っ」





言い返そうとしたら、ゴトリ、と音がした。

これって、刀?




あっ、そういえば元親に助けられた時に返してもらってたんだっけ?

すっかり忘れてた!




多分最初の時に没収されてたんだろうな。

忘れてたけどでも、返してくれた!!





「も、元就さん、これ・・・!」

「船から降りるというのであれば、それで我を殺してみせよ。貴様には到底無理な話であろうがな。」





心機一転、感謝の言葉でもと思ったけどやっぱりやめた。

こんのひねくれオクラが・・・・・・





・・・・・・いや、やっぱり一応、形だけは感謝しておこう。

私の人間性が試されているんだ・・・・・・!!





「スー・・・ハー・・・元就さん、アリガトウゴザイマシタ。」

「ふん・・・まぁよい。我は部屋に戻る。」





ごめんね枝。

私があの時厠にさえ行かなかったら・・・




でも没収されてた刀は返って来たよ。

お前との修行の成果をこの刀で見せてやるんだから!




よーし、打倒毛利元就!!

頑張るぞ!!


















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