002:赤髪の男と悪魔の実
その地は一面が白い。
吐く息もすぐに凍り、自然へと還ってゆく。
そこに、一つの小さな村がある。
海沿いで、けれど深い雪山にも劣らない寒さを持っている。
村の名前はネージュ村。
この村には、半年ほど前から、ある海賊船が停泊していた。
「ねぇシャンクス!今回はどんな航海だったの?」
その海賊船のクルー達は、村のある一軒の酒場に来ていた。
酒場には、そのような場所には不似合いな、まだ幼いもいた。
は、シャンクスと呼ばれた赤髪の男とカウンター席に並んで座っていた。
シャンクスには左腕がなかったが、はそれを聞かなかった。
「今回はな、海の秘宝と呼ばれる“悪魔の実”を手に入れたんだ。」
「うみのひほう…?秘宝なのにどうやって手に入れたの?」
「どうやってって…海賊だから宝を手に入れる。当然だろう。」
「あ、そっか。」
「実は襲ってきた海賊船から奪ったやつなんだけどな。」
「…ふーん…」
いつもこんなやり取りをしている。
そしては、いつもこう言う。
「私も行きたいなー。」
と。
そしてシャンクスもいつものように笑顔で応える。
「お前みたいな奴を知ってるよ。」
それからまた、いつもと同じ会話が続く。
「何度も聞いたよそれー。その海の秘宝を食べて、ゴム人間になっちゃった人でしょ?そんな馬鹿なこと絶対にしないから!」
「ハッハッハッ!そんなことされたら俺たちも困る!!」
シャンクスは酒を煽りながら言った。
は、シャンクスが前回の航海から帰ってきた日もこんなに宴を開いて、次の日に辛そうにしていたのを覚えている。
それがあっての中ではシャンクス=酒に弱いという公式ができていた。
そのは今、この店の店主であり、姉であるオリーディアの出す食事を口へ運んでいる。
オリーディアは17歳になったばかりだった。
とは歳の離れた姉妹であり、同時に親子のような関係だ。
二人の母は、が生まれてすぐに病気で死んでしまい、父は海賊で全く村に帰って来ていない。
だから、オリーディアはの姉でもあり、母親でもあるのだ。
はほとんど顔の知らない父を嫌ってはいなかった。
しかし、だからといって好きというわけでもなかった。
単純興味がなかったのである。
ネージュ村の民は、少し変わっていた。
目の色はクリアな翡翠の色。
髪は綺麗な銀髪。
も、オリーディアも、その他の村人も皆同じだった。
シャンクスはに背中を向けて、仲間たちと話していた。
その会話にはオリーディアも混じっていた。
そしてオリーディアはシャンクスに問いかけた。
「船長さんは、この村にあとどれくらいいるんです?」
は料理を食べながら聞いていた。
「そうだな…」
考える素振りをして、シャンクスは急にクルリと椅子を回転させての方へ向いた。
「!!!!??」
「、オレ達はあと2,3回…って……。」
シャンクスが振り返ったと同時に、ゴクンッとその場に響いた。
店の時計がカチカチと音を鳴らしながら,静かに時間だけが過ぎていく。
沈黙を破ったのはだ。
「のっ…飲んじゃった……。」
「お前……それまさか…!!」
そして次の瞬間、衝撃の一言が降りかかる。
「お頭ァ!!箱に入れてあった“レイレイの実”がねぇ!!」
「まさかお前っ…!!あの箱の中のモン食ったのか!!?」
「えっ……う、うん。おいしそうだったから……正直かなり不味かったけど……。」
「バカ野郎ー!!お前が食った実はな!さっきオレが言った“悪魔の実”なんだよ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「えぇぇぇーーーー!!!!」
は一気にパニックになった。
が実を飲み込んでしまった理由は、シャンクスが急にこちらを向いて話しかけてきたのに驚いたからだった。
「!お前さっき自分が言ったこと覚えてるか!!?『そんな馬鹿なことはしない』って言ったんじゃねぇのかよ!!」
「ごごごごめんなさい!!」
そして暫く酒場には叫び声が交わされた。
少し落ち着くと、シャンクスは静かに話し始めた。
「いいか?よく聞け。“悪魔の実”はな、一口食べればもう能力者なんだ。その能力を得る代わりに、食べた奴はカナヅチになる。“悪魔の力”との引き換えにだ。」
「じゃあ…私泳げないの?」
「そういうことだ。そして、お前が食った実は“レイレイの実”といって、液体を凍らせたり、溶かしたりする能力らしい。」
「…らしい?」
「ああ。オレもよくは知らないんだ。敵船で奪う時に相手のクルー達が話してるのを聞いただけで本当かどうかは分からん。」
「…そう…なんだ…。それに、そんな能力いるのかなぁ……それなら泳げたほうがいいと思うんだけどなぁ…。」
「食べちゃったものは仕方ないでしょ?今更言っても遅いわよ…はい水」
そう言いながらオリーディアはコップに水を入れての前に置いた。
「それでやってみて、能力。私もちょっと気になるのよねー。」
「他人事だと思って……。」
「いいからいいから!」
言われては、そのコップに手を翳した。
実際手を翳さなければいけないかどうかは分からなかったが、とりあえず格好としてやった。
が凍るように念じると、中の水がゆっくりと凍った。
そして今度は手を翳さずに凍らせてみようと、コップの隣にあったシャンクスの青い色の酒の入ったグラスに意識を向けた。
すると酒は、やはりゆっくりと凍った。
「……綺麗ね」
「そうだな…だが…酒を戻してくれないか?」
そう言われて、渋々酒を元に戻しただった。
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