004:別れ





シャンクス達が村を出て、三ヶ月程経った。



は、村の外れにある林の中で鍛錬していた。

鍛錬といっても、能力を使いこなせるようにするという実にシンプルなものだ。




木の葉を凍らせたり、雪を集めて凍らせたり、液体を凍らせたりなど、思いついたものから順番にやっていった。

そして、まだ範囲は狭いが海を凍らすこともできるようになった。




そんなある日のことだった。





太陽が東から昇り西へ沈むのが当たり前のように、今日もいつもと変わらない時間が過ぎていくものだと誰もが思い、決して疑わなかった―――




その時、 は酒場でオリーディアと話していた。

まだ昼頃で、客はいなかった。




すると突然、勢いよくドアが開かれ、誰かが入ってきた。

何事かと思い、二人はドアの方を向くと、息を切らした村の青年がいた。




何かあったのだろうか?と思った直後に、オリーディアが口を開いた。




「何かあったんですか?村で…事件でも?」




青年は、まだ乱れている呼吸を整えながら言った。




「か…海賊だ……海賊が……!」




それを聞いた瞬間、 はシャンクス達が帰ってきたと思った。

だが、青年から言われた次の言葉によって、その思考はかき消された。




「海賊が…………攻めてきた……!!」




「え……」

「そ…それ本当なんですか!?」




「ああ、今……港に何隻か船がおいてある…早く林の中へ逃げろ!!」




そう言うと、青年は店を出て他の家にも知らせに行った。





「一体…どこの海賊が……」

「……とにかく行きましょう。」





二人は店を出て、林の方へ駆けて行った。















「ハァッ……ハァッ……」





二人は林に着いたが、そこはもう海賊達の手によって、とても避難できるような場所ではなくなっていた。

先に逃げていた村人は捕まり、周りには銃やサーベルを持った海賊がウロウロしていた。




二人はそれを木の陰から見ていた。

今派手に動くと、二人とも見つかってしまう。




オリーディアはふと海の方を見た。

今二人がいる場所は、緩やかな丘になっていてオリーディアほどの身長があれば、海を見渡せることができる。




そしてオリーディアは、視界にある物を捕えた。

それと同時に、彼女の表情も強張った。





「…?姉さん?何か見えたの……?」




姉の異変に気付いた が声をかけた。

しかしオリーディアはそれに答えなかった。




暫く海を見つめたまま。

そして、何か決心したように、 の方を向いた。




。」

「……?」





――――姉さんのこんな顔、見たことない……




は今までずっと一緒にオリーディアと一緒に過ごしてきた。

けど、オリーディアのこんな表情を見るのは初めてだった。




にはその表情は、決心というより、覚悟を決めたような顔に見えた。




は海賊になるんでしょ?」

「え……」




「なるんでしょう?赤髪の船長さんと約束したじゃない……!!」




は、オリーディアの気迫に押され、ただ黙って同じ色の瞳を見た。





「約束を果たすためには……ここで死んじゃいけないでしょう!?」





そこで は、姉が自分に何を言ってるのか気が付いた。






私に。



生きろと。










「今から海へ向かうわ。確か……小さなボートがあったはずだから。」




確かに、ボートはある。

でも、あれは小さく、古びた物で、二人で乗るのは不可能だ。





「海へ出るまでの間は、とても大変になると思うわ…もしかしたら、殺されるかもしれない。でも……」



オリーディアはそこまで言うと、一旦口を閉じ、 を抱きしめた。

それはどこまでも強く、温かく、優しかった。




だけは……死んでも守ってあげるから。」

















―――――出来ることなら、向こうの海へは出たくない……

オリーディアは、林の中で妹の手を握って、走りながら思った。




けれど、村に面している海は、海賊船が泊まっているあの港しかなかった。

それに―――――




「おい!そこの女と子供!!止まれ!!」




先程、海賊に見つかってしまい、そんなことを考える余裕などどこにもなかった。

男は三人組で、一人はサーベル、二人は銃を持って追いかけてきている。



そして、銃を持った二人の男が、引き金を引いた。




パァン!!という音が鳴った。

同時に、逃げている二人が唸った。




「あっ……!!」

「いた…」



弾が当たった。

オリーディアは左足のふくらはぎを、 は右肩を打たれていた。




しかし、貫通はしておらず、けれど掠めたとも言い難い撃たれ方だった。




それでも二人は走り続けた。

オリーディアは、打たれた左足に負担がかかるはずだが、今までよりも速いペースで走った。




「姉さん……大丈夫…?ハァっ……ハァ……」

「私は、大丈夫…… 、こそ、大丈夫…?私より、傷が深い、ようだけど…………」




「だい……じょうぶ…!」




二人ともそうは言っているものの、走り続け、傷を負ったため、体力的に限界がきていた。

その時、二人の視界に林の出口が見えた。




(もうすぐだ……!!)



二人は更にペースを上げた。

林の出口を抜けて、ボートまで駆け寄る。



休む暇なんてない。

もうすぐあの三人が林を抜けてやってくる。




それまでに、ボートを海に出して逃げないと。




そんなことを考えながら、 はボートを押した。

ボートは意外に軽く、二人で押せば簡単に動いた。




少し海に浸かるくらいまで押すと、オリーディアは をボートに乗せた。

がボートに乗ったのを確認して、オリーディアは口を開いた。





「……いい?船を出すわよ? にはオールは重くて漕げないから、波任せに進むしかないけど……絶対に生きて、幸せになるのよ…………」





一瞬、時間が止まった。

―――――姉さんは何を言ってるの?




「一人にしてごめんね……!」





泣きながら。

笑顔で。





最後にグンッとボートを押した。





―――――ッ!!!




は全て理解した。

薄々、そんなこともあるんじゃないかと思っていた。




でもそれはただの空想にしかなかった。

頭のどこかで否定し続けていた。




そして はすぐにボートの端まできて。




「やだ!!何で!?一緒に逃げようよ!!」




力一杯叫んだ。

声が裏返るほど。





「どうしてっ……姉さんが死ななきゃいけないの……!!」




頬に幾筋もの涙が流れた。

でも、オリーディアは に背を向け、林の方へ向いていた。



すると突然、 の膝がガクンッと折れた。

そしてそのまま、俯くように倒れた。



力が入らない。





「え……なんで…!!」



は打たれた肩を止血する暇がなかった。

そのため、血は止まることなく流れていた。




何が起きたのか分からない だったが、すぐ近くで聞こえた銃声によって、現実に引き戻される。




(姉さん!!!)





起き上がろうとするも、力が入らない。

意識が朦朧としてきた。




ふと横を見ると、海賊船があった。

その海賊船の海賊旗を見た瞬間、 は夢を見ていると思った。




しかし、肩の痛みがそれをさせなかった。



あぁ、姉さん。

姉さんは、これを見たから。



私に、ショックを与えないために、私を逃がしたんだ。

でも、ごめんなさい。



私も、同じものを見てしまった。

懐かしい、あの海賊旗を。




そこで、 の意識は途絶えた。




















「船長ー!8時の方角に何か見えます!!」




ある海賊船で見張りをしていたクルーの一人が叫ぶ。

その「何か」は、だんだんと海賊船へ近づいてきている。



それは小さなボートだった。

怪我をしている、小さな少女を乗せた。




「バギー船長……どうします?」

「わっはっは!!今日のオレは気分がいい。乗せろ!宴は人数が多い方が楽しめんだろ!!」



そして少女はバギー海賊団の一員となった。






















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