白ひげと仲間










白ひげのいる部屋に来た瞬間、私はフードを取っていた。

なぜかは分からないけれど、多分心理的に取っていたんだと思う。




私なんかじゃ足元にも及ばない、絶対的存在。

その威圧を目の前にして、私は隠しておくことができなかった。





「オヤジ。言ってたのコイツなんだけどよ、仲間にしてェんだ。」





私は部屋に入る前に外で少し待たされた。

先に話を通して来るとかなんとかで。





緊張してか顔を上げられずにいたが、値踏みをされているように頭からつま先まで舐めるように見られているのがなんとなく分かった。

早くこの場を離れたい。





本能的にそう思っていたけど、ここを離れたからと言って私に行く場所なんてあるはずもなく。

目の前にいる白ひげの答えを大人しく待つしかなかった。






「グララララ……久しぶりに見た。」

「……え?」





品定めが終わったのか、白ひげは貫禄のある声で言った。

その発言に、スッと顔を上げた。






「『久しぶりに』って……オヤジ、と会ったことあるのか?」

「いいや、この小娘とはあった事ァねェが……まァ今はその話はいい。いいぜ、人間皆海の子だ。」





上手く喋れない私の方を見て、白ひげは口元に弧を描いた。






「今日からお前はおれの娘だ。船の奴らと仲良くしろよ……グララララ……」

「む、娘……?家族…?」





「そら、とっとと挨拶しに行っちまえ。今夜は宴だァ!」

「おう!!じゃ行くぞ、!」





「えっちょっと私まだ話……」





がしたい、と言い切る前に来る時と同じようにエースに腕を掴まれて、引っ張られるようにして部屋を退出した。

……あとでまた来よう。





私の腕を掴むエースは全く力を緩める気はなさそうだった。

しかし本当にどうしよう。





一応身を置く場所が出来たのは助かるけど、ずっとこの船にいるっていうわけにもいかない。

その話も、また後にしよう……





ちらりとエースの様子を盗み見ると、先程の不機嫌さはどこかへ行っていた。

むしろ嬉しそうな表情になっている。




私なんかが来たところで、何も変わりはしないのに……

あ、宴の方が楽しみなのか。





さっきの皆との会話でも、食べる事大好きって感じだったし。

でも私一人のために宴なんて、ちょっと大げさすぎる気もする。





「ねえ、いつも仲間が増えたら宴するの?」

「?なんでそんな事聞くんだ。」





「私一人のためだったら、なんというか……上手くいえないけど、申し訳ない感じがするというか……うっ」





するとエースは立ち止まってこちらを向いた。

急に止まったから、エースの背中にぶつかってしまった。




鼻をさすりながら謝ろうとしたら、エースはニカッと笑いながら言った。





「家族が増えたら嬉しいじゃねェか!」





その時のエースの屈託のない笑顔に、私は魅入って納得した。

この海賊団は、皆家族なのだ。





「オヤジはおれ達に生き場所をくれた。世間じゃ嫌われ者だからな。」

「あ……」





その言葉はすぐに理解できた。

私も同じだから。




しかし、それはエースが自分自身に言っているようにも聞こえた。





「オヤジは、そんなおれ達を息子って呼んでくれる。言葉だけでも嬉しいんだ。」

「そうか……」





私は来た道を振り返って、白ひげのいる部屋のドアを見つめた。

その寛大な懐の大きさと、仲間達からの信頼の厚さが『白ひげ』の強さなのだと思った。




「まあ、今のは受け売りなんだけどな!」

「でも、納得できた。見ず知らずの私が船に乗ってても、誰も疑わない理由。家族が連れてきた人だから、皆安心できるんだね。」




「それだけじゃねェ、がいい奴だからだ!嫌いな奴には寄って来ねェからな!」

「……けど私、愛想よくなんてできなかったけど……」





「最初は誰だってそうだろ?おれだって来たばっかりの時はそうだった。これから打ち解けていけるさ。」





そう言われてみれば、確かにそうだった。

エースとの会話も最初はぎこちなかったけど、だんだん打ち解けられてきた。





それに、向こうから積極的に話しかけてきてくれていた。

今は意識的にだけど、いつか自然に明るく接することができる日が来ると信じよう。





「よし、行くか!おれが皆に紹介してやる!」

「うん。……あ」




「どうした?」

「……皆の名前……覚えられるだろうか……」




確か、白ひげ海賊団っていくつかの隊に分かれていたような……

一つの隊に何人くらいいるのだろう……




そうだ……船の道も覚えないと……

こんなに大きい船だから、きっとややこしいに違いない。




そう考えると、これから先があまり明るくないような気がした。





「あっはっは!なんだそんな事か!」




割と本気で悩んでいたことを、大笑いして返された。




「ゆっくりでいいんだ。誰も急かさねェよ。」

「……だといいけど……」




私はその笑顔の前で心の内を言えるわけもなく、苦笑しながら答えるしかなかった。















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