「そんなこと知るわけ「それはお前らが必要ないと見なされたからさ」」
一度に沢山のことが起こった
005.君との方向性
まず、私が男の発言に応えようとした
しかし、その声は何者かの声によって遮られた
それと同時に背後から、また別の男が襲いかかってきた
それを防ぐために戦闘態勢に入った
軽くまとめるとこんな感じ
一瞬焦っちゃったよ、一瞬ね
私の声を遮った声によって、男の攻撃への反応が少し遅れてしまった
幸い怪我を負うことはなかったけど、危なかった
「っはぁっ!!」
男に反撃するために、手を地面につけて蹴り上げる
蹴り飛ばそうとしたけど、あと少しのところで避けられた
「・・・誰・・・?また仲間が来たのか・・・?」
反撃する私に反撃をしてこない男に私も動きを止める
不自然には思ったけど、その視線は私へは向けられていなかった
私はその隙をみてアンディの方を盗み見ると、意外な光景が目に映った
さっきまでペラペラと喋っていた男の、無惨な死体
そして先程私の発言を遮ったであろう白スーツ人物、おそらく男性だ
その男が、アンディと何やら話していた
・・・しかし・・・あの白いスーツの男・・・
どこかで見たような気がする・・・それもつい最近
・・・いつどこで見たんだったか・・・・・・
その時ふとさっきすれ違った、帽子を被った二人組の男達が脳裏に浮かんだ
・・・ああ、あの人だ
さっきすれ違った時も、この人どっかで〜・・・って思ったんだっけ
結局誰だったんだ・・・?
一人で試行錯誤を繰り広げていると、殺意を感じて我に戻った
目の前には、赤紫色の、細い鎖をいくつも繋ぎ合せたような物が飛んできていた
私は反射的にそれを避けた
しかし避けきれず、左の頬を掠めてしまった
ツー・・・と赤く細い線が、生温かく頬を伝っていくのが分かる
直後、悲鳴のような声が聞こえた
私が避けたために、後ろにいた男にさっきのが当たったのだった
成程これであの運転手の男を・・・
「なぁ!お前とも久しぶりだ!こっちへ来て話そうじゃないか!」
・・・な・・・?
今、なんて・・・・・・?
私の名前と?久しぶり?
何が?
え?何一つ理解できない
とりあえず、あの男と私は少なくとも知り合いって事・・・?
「なんだ・・・お前も俺のことを忘れたのか?」
「・・・?」
アンディが、少し動揺した目で問いかけてくる
「わ、私にも、何が何だか・・・ひ、人違いじゃないの!?」
い、いやだって、帽子深く被ってて顔見えないしっ・・・
声だって聴いたことないしっ・・・
でも、確実に今、私の名前を呼んだ
「人違い、か・・・暫く見ない間に随分とつれなくなったな」
「だから何言って・・・」
「昔は一緒に暮らしてたんだけどなぁ」
「・・・・・・は?」
ますます訳が分からない
一緒に暮らしてた?何を言ってるんだ?
私は昔家族がいた頃…マフィアだった頃住んでた家と、あの施設しか今まで暮らしたことがない
それ以来はずっと本部にいる
一緒に暮らしてたわけがない
「・・・本当に覚えてないのか?」
「今までの情報だと、明らかに人違いにしか思えない。・・・まずその顔を見せたらどうだ」
顔が分からないのは話にならない
まずはそこからだ
「ああ・・・それもそうだな」
男は納得したような声を上げて、紳士が挨拶をするように片手で帽子を持ち上げた
その瞬間、私は自分の目を疑った
「・・・・・・え・・・・・・?」
薄い金髪
青い目
人を見下したような笑み
たれ眉
「・・・ま、さか・・・・・・」
私の動揺を感じ取ってか、勝ち誇ったような嫌味な笑顔を向ける男
自分でもハッキリと分かるくらいに動揺している
これじゃ、知っていますと言っているようなものだ
でも・・・私は、知っていた
「・・・お前・・・バジル・・・・・・?」
私は俯いた
心臓がドクドク鳴っている
なんで・・・どうしてアイツがここに・・・
確かに、一緒に暮らしてたといえばそうだ
でも暮らすというよりは、監禁されているに近かった
痛いし、何も無かったし、息の詰まったような、生きている心地がしなかった施設での生活
その時に知り合った一人の男の子
それが、目の前にいるバジルだ
私はバジルを置いて逃げ出した
あの後の彼バジルどうなったのかは分からなかったが、今こうして目の前に悠々とたたずんでいる
でも、本当に目の前の男はバジルなのか・・・?
「――わっ!」
「何してんのさ!しっかりしろよ!」
ぼーっと考え事をしていた私に攻撃してきていたらしく、アンディに抱えられてなんとか当たらずに済んだ
・・・そうだ、何はともあれ今は戦闘中だ
今は目の前の敵に・・・
「は下がっててよ。ここはボクがやる」
「・・・は・・・?」
「今の君じゃ、アイツとまともに戦えないでしょ」
「・・・!でも、」
「おいおい、お前ら俺の事忘れてないか?」
また、あの鎖が飛んできた
私は、半ば強制的にアンディにその場を任せた
「まずはお前が相手してくれるのか?アンディ」
「・・・・・・」
「まぁ丁度良かった。俺、汚いのダメなんだ」
「・・・?」
途中から言っている意味が分からない
潔癖症・・・・・・か、昔からそうだった
「汚れはとても目につく。綺麗にしないと気がすまない」
更に場の緊張が高まった
ピリッと肌を伝ってくる
「お前に負けた一点の黒星が、気持ち悪くて仕方ないんだ」
それが合図かのように、ドゴッという音が地響きと共に響いた
バジルの武器が地面を抉った音だ
今気付いたけれど、バジルが使っている武器にもスキャッグスの紋章がある
それに・・・・・・
『それはお前らが必要ないと見なされたからさ』
さっきの発言からして、まだスキャッグスとの関係が続いているとしか考えられない
・・・当然、リバースナンバーは一生涯付きまとうものなんだけど・・・
そういうのじゃない
心も体も、スキャッグスと繋がりがあるっていう事・・・?
じゃあ、もしかすると今も・・・
「俺達はこの世界を変える。この汚れた世界を!!」
「!」
ヒュンッと音がして、バジルの武器が不規則に動く
そしてゴパンッと、再び地面を抉る
崩れた地面から生まれた瓦礫が不思議と宙を舞い、視界が悪くなる
当然それを狙っての行為だけど、アンディは・・・!?
目を凝らしてアンディを探すと、ギロチンを使ってなんとか凌いだようだった
アンディの眼・・・ブルート・アイでもなんとか見切れるくらいだろうか
アンディを探すために一点に集中させていた視界を広げると、先程まで姿のあったバジルがどこにもいない
バッと辺りを見渡しても、少なくとも私の周囲にはいない
じゃあ、アンディの方か・・・!?
またアンディの方を見直すと、案の定その通りだった
煙幕に紛れて、バジルはアンディを地面に叩きつけていた
「おいおい、暫く見ないうちになまったんじゃねぇの?」
「っアンディ!!」
無意識に立ち上がり、アンディの方へ駆けだした
そのうちに当の本人は起き上がってギロチンを振っていた
細いのに丈夫なのは、リバースナンバーも関係しているのかな・・・
ふとそんな事を思った
「随分言いたい放題言ってくれる・・・、」
「・・・汚い・・・」
「!?」
「え・・・」
「ズボンが汚れた。折角の白いスーツが台無しだ。どうしてくれんだよ」
バジルの様子が一変して、足を止めた
見ると、バジルのズボンが砂で汚れていた
恐らくアンディとの戦闘で付いたものだろう
「汚い、汚い、汚い、ああ、全てが汚い。お前も、お前も、俺も」
血相を変え、アンディと私を順番に見ながらぶつぶつと言っている
もしかすると、バジルの能力が・・・
「そう所詮、俺も汚い人間なんだ。汚い・・・俺も・・・は・・・ははっ・・・」
少しだけ狂ったように笑って、それから満面の、やはり狂ったような笑みで言った
「そう、全てが汚いんだよ」
そう言った瞬間から、ジュウッと音がしてゆっくりと辺りに異臭が漂った
焦げるような、腐ったような臭いが鼻を突いた
思わず顔をしかめたくなる臭いだ
アンディがギロチンを手元に戻そうと鎖を引っ張る
しかしバジルがそれを左手で止めた
その鎖を握った左手から、また腐臭がした
「人間は皮に包まれたただの汚物だ」
「このっ」
アンディが再びギロチンの鎖を引っ張るが、今度はバジルの武器の鎖が絡み付いた
丁度バジルが握っていた部分に絡まり、ギロチンの鎖が千切れた
「くそっ」
「あっだめっ・・・!」
アンディが千切れたギロチンを取りに行こうと走り出した
それだと、相手の思うつぼだ・・・!
あと少しで届く、というところでアンディが右手をのばす
しかしそれもバジルの左手によって遮られる
「知ってるだろ?お前も。人間の本質を。それを分かってない奴らがいる。ああ、たまらない」
見てるだけでも分かるほどに、バジルがアンディの手首を握る力が強まった
そこから、焦げた臭いと腐臭が漂う
「ぐぁ・・・・・・」とアンディが呻く
それでも相手は当然手を離すわけはなく
「アンディは分かってるよな?分かってるはずだ。分かれよ。自分も汚いと認めろよ。俺をそんな目で見るんじゃねえクソ共が・・・!!」
壊れたように言葉を綴るバジルに、少しだけ恐怖を覚えた
そしてそんなバジルに対抗するアンディを少し尊敬した
千切れた鎖を思い切り振ってバジルから離れるアンディ
バジルが手に付けていた手袋は、焼けてボロボロになって使い物にならなくなっていた
「・・・っ・・・やっぱり・・・、これがバジルの能力・・・!!」
「そう、俺の力は・・・汚い・・・!!」
そう言って自分の左の鎖骨部分に左手を押さえつける
それはやはり、バジルの服を溶かして鎖骨が露わになる
バジルの左側の鎖骨には『SCCAGGS』の文字と、逆さまに書かれた『No.004』の数字
リバースナンバー4、“侵食の掌(イローションパルム)”
さすがに・・・武器なしで相手は難しい
私が出たところで何の変化もないだろうし・・・
どうする・・・何もしなかったらこっちが・・・!
「・・・なぁアンディ、一つ言いたいことがあるんだけど」
バジルに集中させていた意識を更に集中させた
けれど、予想とは遥かに違った発言が返ってきた
「俺帰りたい」
「・・・は?」
「帰って、とりあえず手を洗いたい」
汚い気持ち悪いだからヤなんだよこの能力・・・とその後も一人でブツブツ呟いていた
なんというか雰囲気ぶち壊しというか
「いやいやいや!唐突すぎるでしょ」
「そうだぞ、ちゃんと情報提供してから帰りなさい」
「シャルル今までどこにいた?」
「あれ?オズは一緒じゃないの?」
「オズは向こうでフラフラ飛んでたぞ」
な、なんと・・・こんな時まであの鴉は・・・
く、くそうなんか・・・悔しい・・・
「そろそろ潮時だし。どうせすぐにまた会える・・・15年――『あの人』は待ったんだ」
「・・・?」
「どういうことだ・・・?」
アンディがそう言うと、バジルは意味深な表情を浮かべて怪しく微笑む
それから私の方を向いて、その笑みのまま近付いてくる
アンディがバジルの前に立ちはだかったけど、また武器で地面を抉り視界を悪くした
今まで以上に視界が悪く、土埃が目に入って涙が出たり、口に入って噎せたりした
すると背後から気配がした、けれど気付いた時には遅かった
警察が犯人を捕まえた時にするような、右腕を背中に押さえつけられた形で締め上げられる
「っ!!いつの間に・・・!」
「知らないようだから、置き土産に一つ教えといてやるよ・・・こいつの正体を」
そう言って私の体を正面に向けて、左手を鎖骨部分に当てた
するとまだ能力が続いていたのか、腐食が始まった
「なっ・・・何をっ!!」
「どうせ今知らなくとも、いつかはばれるんだ。なら今知られても関係ないだろ?」
「くっ・・・止めろっ・・・!!」
「しかしまァ・・・よく長い間隠し通せてきたものだ」
少しずつ、私の鎖骨も露わになってくる
そして見えてくる、文字
「止めろって・・・言ってるでしょ!!」
私は思いっきり体を捻ってバジルの手から逃れた
かなり痛かったけど、そんなのどうでもよかった
どれくらい溶けただろう
運転手の男が攻撃してきた時に羽織ったコートも一緒に溶けてしまった
多分、『SCCAGGS』と『No.』までは正面から丸見えなくらいに溶けているだろう
私はその場に屈みこんだ
羞恥からか、それともソレを見られたくなかったからかは私も分からなかった
「っ・・・!!」
「あっ、だ、大丈夫!私は大丈夫だから!」
バジルを睨むと、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて見下ろしていた
それから、子供がパーティを楽しみにしているかのような口調で言った
「まぁいい・・・『あの人』が作った波紋は、既に広がり始めている」
どこからか、足音が聞こえてくる
気がする
「そしてボルタ地区が、始まりだ」
「お前ら何する気――」
「動くな!!!」
また別の男の声がした
四人の男がいる
三人は銃をこちらに向けて構えていた
もう一人の帽子を被った男は、その四人の中で一番のお偉いさんなような雰囲気だ
「ほら潮時」
バジルは分かり切っていたような声で言った
実際そうだったわけだけど
「そこにあった死体は、お前達がやったものか?ここはカッチーニの縄張り内だ。勝手な殺しは許さんぞ」
そういって帽子の男がこちら側を見ると、バジルと目が合ったようだ
バジルと男の間で、不穏な空気が流れる
それから、男が悔しそうに小さく「shit」と言ったのが聞えた
アンディもこの妙な空気に気付いた
「じゃあまたな。『赤い服のよそ者』」
「あっ」
「えっあっちょっ」
この時を待っていたかのように、バジルはここから立ち去ってしまった
「逃げるぞ!!追え・・・・・・」
「追うな!!ボスからの最優先事項は、RRの始末だ!!」
逃げたバジルを追おうと、一人の部下が声を上げたがそれは止められた
なるほどこれは・・・バジルと・・・スキャッグスと何か繋がっているな・・・
それからおそらく・・・この男の名前はカロジェロ・スカリーゼだ
ボルタ地区を任されているカッチーニの幹部・・・
情報が正しければそのはずだ
「女子供だからといってなめるな!!確実に仕留めろ!!二人ともだ!!」
「・・・・・・了解」
「カロジェロさん・・・・・・だっけ?うまく逃がしたって感じ?」
「・・・・・・・・・何の事だ」
確かにその通りだろうけど・・・今はマズイ・・・
十分に動けない私と、先程まで戦闘していたアンディ
戦えないことはないが、今問題を起こすわけにはいかない
RRは誤解されて狙われている・・・今問題を起こせば、火に油を注ぐようなものだ
「RR・・・カッチーニに手を出した罪は重いぞ」
よく言えるものだ
カッチーニはスキャッグスを忌み嫌っているくせに
幹部である男が、そのスキャッグスと繋がっているのだから
そこまで分かっているのに、手が出せないというのは凄く歯痒い
カッチーニは、政府側が迂闊に手出しできないまでに大きな力を持ったマフィア
でも・・・ここで死ぬわけにはいかない
「たとえ相手が執行人でも、俺達はマフィアだ。政府のカラスを殺すことに躊躇いはない」
ジャカ・・・と、静かに銃を構える
じりじりとアンディが後退りして、私の隣に来た
かと言って状況は大して変わりはしないけど
「撃て」
カロジェロ・スカリーゼが言うのと同時に、私達の目の前に壁が降ってきた
正確に言えば、壁と人が降ってきた
「棺!?」
その振ってきた壁に守られて、銃弾に当たることはなかった
その壁は、よく見ると十字のペイントが入った人一人入れそうな大きな棺
顔を上げると、見慣れた赤いコートを着た人
フードの合間から見える赤い髪
「何やってんのさ『四番目』、『零番目』」
「なっ・・・ナゼ・・・こんなところに執行人が三人も・・・!!」
「随分と面倒臭そうな状況だなあ」
声はやっぱり聴きなれた男の声
長い前髪から覗く濃い隈が特徴の目
「こいつっ・・・」
「まだ判定書も出てないってのによ」
ジャラリッと大きな十字の形をした武器を数本手に取り、投げ飛ばす
すると相手に武器や足元に当たり、相手の形勢が崩れた
それから目の前の同業者は、大きな棺を蹴って蓋を開け、また数本武器を取り出した
そして再び相手に脅しをかけるように足元へそれらを飛ばした
「あーー・・・シャルル、これは正当防衛だから上にチクんじゃねぇぞ」
ぱさり、と被っていたフードを脱ぐ同業者
その背中には、レッドレイヴンである証ともいえる『R』と『R』を鏡に映したような逆のアルファベット
その二つの『R』の間にある『U』の文字が、フードを脱ぐ一歩前に見えた
「お前・・・なんでここにいるんだ?」
シャルルが驚きの声を上げる
それもそうだ
目の前の同業者も、内容は知らないけど任務に当たっていたのではなかったか
なんでこんなところに・・・
「RED RAVENU・・・ウォルター・マーキン!!」
ウォルターは不敵な笑みを浮かべていた
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